IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

布でつながる人々

これ以外にも、カンボジアと共通する緯糸絣の布がこのベトナムの地で織られていた。チャム語でカンカッ(絣)という布は、カンボジアではサンポット・ホ-ルと呼ばれている伝統的な絣である。この布はこの地域のクメ-ル系の人達にも販売されおり、もちろんムスリムの彼女たちも祭りや結婚式の時に着用する伝統的な布である。柄は、カンボジアで織られているものと同じで、過去においては天然染料からもたらされた伝統的な5色(黄、赤、緑、藍、黒)の配色で、花柄と幾何学模様の組み合わさった柄などが中心で、カンボジアで織られている物と全く同じである。これらの絣は、同じ系統のものが東北タイのクメ-ル系の村人によって、同じようにホ-ルと呼ばれて織られている。メコン河の流れに沿って、東北タイ、カンボジア、そしてベトナムのメコンデルタが絣の布を通じてつながったことになる。

この村では、カンボジアのチャムの村と同じように普段着としてのムスリム用のサロ-ンが主に織られている。木綿だけの物もあるが、この村では木綿と絹の「混織」のサロ-ンが多く織られている。これは、経糸が生糸で、緯糸に生糸と木綿を交互に縞柄で織り込むもので、イスラ-ム法により純絹の布を着用することを禁じられている敬虔なムスリムのために、インドなどでも「マシュ-ル絣」とよばれて織られているものである。サロ-ンの柄は、格子柄により構成されていて、インドのマドラスチェックに似ているが、他の一般のサロ-ンにはない、ムスリム独特の細いストライプの柄が格子柄の中に20センチ程しっかりと織り込まれている。何通りかある柄の中で、カンボジアの村では見かけなかった絣の技術を用いた、波模様のサロ-ンも織られていた。

織り上がったサロ-ンはカンボジアやベトナムそしてマレ-シアのムスリムのための市場に、仲買人を通じて販売されている。私が、何軒かの高床式の家の階下に置かれた織機を見て回っているとき、小さな子供達が後をついて来ていた。よく見ると、その子供達もムスリムのサロ-ンを腰に巻いている。その配色は、カンボジアのクラチェに近い、メコン河沿いのムスリムの村で織られていたのと同じような紫や藍色そして緑色の格子柄のサロ-ンであった。

使われている生糸は、ホ-チミンから180キロ程、有名な高原の避暑地ダラットの手前、山間部にあるバオロックというベトナムの養蚕の中心地で生産されたものだという。戦乱の中で、養蚕のほぼ壊滅してしまったカンボジアの村人も、同じバオロックの生糸を使っていた。糸の染色は専業化されているようで、一軒の家に男性が中心になって染色に励んでいた。染料は化学染料がおもで、天然染料は唯一絹のカントゥアンを織る時に、生糸の黄色の下染めにブロフ-とチャムの人々が呼ぶガンボジの樹皮を使用している。クメ-ル語でも同じ呼び方をする。これは、カンボジアのクラチェの近くのチャムの村や東北タイのクメ-ル系の村人も、同じやり方で今も下染めに使っている。チャウドックのチャムの人々は、この樹皮をベトナム中部の山間部から取り寄せている。

ベトナム語で織機のことを「コォンタゥ」と呼ぶが、チャム語では「キ」と呼びこれはタイ語の織機を呼ぶ「キィ」と類似してる。ちなみにクメ-ル語では織機のことを「ガィ」と呼び、東北タイに住むクメ-ル系は「ガイ」、ラオ系の人々は「フゥ」と呼ぶ。

更新日時 : 1995年5月16日 09:23

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