戦乱の傷跡
カンボジアの「絹織物の現況」調査は、著名なアンコ-ルワットと共に伝統文化の復興に取り組む、カンボジアのユネスコ(国連教育科学文化機関)からの委託により1995年の1月から5月にかけ、実施した。
この調査で私は8っの県の36以上の村を訪ね歩いた。当時、戦乱の続いたカンボジアでは、織物についての情報も少なく、地図さえも当初は手に入らなかった。プノンペンの市場で布を売る店のおばさんに、「この布は何処から来たの」とたずねるところから始まった。織物をする辺境の村に着いて、インタビュ-の後には、「この道の先に織物をやっている村まだあるかな」とたずね、船やオ-トバイを乗り継ぎ、村々を歩いてきた。
私の草木染めや養蚕についての質問に、訪ねた村の織手から「25年前(1970)まではやっていた」と言う話しが良く聞かれた。5ケ月にわたる調査を終えて今思うのは、25年間の文化の中断現象とでも言えるものが、この国に存在した事である。それは丁度、一世代分にあたりあらためて戦争とそれに続く戦乱のもたらした、傷の深さを考えさせるものでした。
しかし、首都プノンペンを中心に、人々の生活は新たな平和の訪れによる安定を見せている。それに伴うかの様に、ここ数年手織物に取り組む村人の意気込みは強く。国内での絹織物に対する需要増が、伝統的な絹織物の再生に大きく弾みをつけようとしている。
更新日時 : 1996年3月 4日 09:31
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