2000年7月アーカイブ

じつは、カンボジアで伝統的に飼育されてきた蚕は、熱帯種のカンボウジュと呼ばれている、黄色い糸を吐く多化性とよばれる種類。おなじ蚕蛾科だが、日本や中国の蚕は温帯種の冬眠する蚕蛾で、1化性か2化性、吐く糸は白い。ともに桑の葉を食し、家で飼われているという意味で、「家蚕」と呼ばれているグループに属する。

そのとき気がついた、彼は近代養蚕のなかで育ってきた専門家であることを。わたしたちは、日本や韓国、中国などで実施されている養蚕業を「近代養蚕」、カンボジアの村などで伝統的におこなわれてきた養蚕業を「伝統養蚕」と呼び、あえて区別している。

わたしの記憶では、三角協力プロジェクトには97年から養蚕専門家がフイリピンから派遣されてきた。最初の担当者が2年、その次にきた担当者が1年。そして、今年、2000年は派遣が中止された。3年間で終わってしまった。

最近、まわりでいくつかの出来事があり、あらためて援助について、考えさせられた。

染の材料

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研究所では、カンボジアで伝統的に使われてきた自然の染め材も、いくつか使っている。たとえば、赤を染めるための、ラックという介殻虫の巣。そして、黄色の染材は、ブロフーと呼ばれる、オトギリソウ科の木の表皮。それ以外にも、黒を染めるための有名なマクルアーの木の実。

しかし、常にあたらしい染材も探しつづけている。村で、自然染色の講習会を開いてもその持続性を考えると、手身近に手にはいる材料での染色が重要だ。その代表格が、バナナやヤシの実。熱帯のこのあたりでは、どこでも手にはいるもの。そして、しっかり、きれいな色が染まる。ガスや水道、そして電気なんかないのが当たり前、というのが現在の村の実情。燃料は薪や炭、水は井戸かため池。そこで目をつけたのが、薪。じつは、熱帯の木の中には、日本で言う合歓の木のような、マメ科の木の仲間が意外と多い。そして、とうぜん薪にされることも多い。マメ科の木は、茶系の色が染まるものが多く、染材としては大切なもの。種類によって、色もすこしずつ違う。村での講習会のとき、「染材は、、」と言いながら、その日の燃料用に村人が持ってきた、薪の山に目をやり、これ、と指をさす。

研究所の家の前には、アンコール遺跡をめぐってきたシアムリアップ川が流れている。その対岸、藁葺きの家が一軒、そして椰子の木やそんなマメ科の木も見かけられる。のんびりとした、田舎の風景がそこにある。良く見ると、その一角に、いつも山から切り出してきたばかりの材木が積んである家がある。自然の染めをやっている身としては、樹木は大切な恵の元。気になりはじめると、やはり落ち着かない。訪ねると、いや、積んである積んである。

このあたりでは、樹齢10年と言うと、直径で20センチ以上にもなる。そんな、樹齢5年から10年ぐらいの木が、可哀想に2メートルぐらいに切られ、山のよう。まわりを見ると、同じような家が何軒か、どこの家も、その広い庭先はそんな材木の山。いわゆる、家具や建材になるような高級な木はない。そんな、有用樹を切り出したあとの雑多な木をあつめて、薪にするために集められてきたもの。

シアムリアップのまあ、薪の卸屋さん街とでも言うのだろうか。それいらい、家から眺めながら、あたらしいトラックが何台か来たあとは必ず、わたしも新しい染材を求め、覗きに行く。そのなかには、染材としては貴重な、いい黒が染まる木もある。染材の宝庫を見つけてしまった、そんな気分である。

シアムリアップの事務所に、二匹の子猫がやってきた。

研究所の建物は、木造のすこし古い家、そのためか、ネズミがすごかった。しかし、不思議なもの、猫が来たその日から昼間でも走り回っていた、ネズミがいなくなった。布や染色の材料など、ネズミがたくさんいると困るものも、あったのだが。これで一安心。

まだ、生まれて一ヶ月ほどの子猫は、立派に仕事をしてくれる。研究所の家には、大家さんが飼っていた、トニーという犬がいた。家を借りるとき、犬つきで借りたのだが、しかし、四ヶ月ほどしたある日、この犬が消えてなくなった。

みんなの話では、冗談のように、だれかにつかまり、食べられてしまったという。確かに、このシアムリアップには、犬の肉を売る屋台もある。食生活の習慣はところ変われば、品変わる。とくに、ベトナム系や中国系の人たちにかかれば、犬も安心して歩いているわけにはいかない。かわいそうな、我が家のトニー。
冥福を祈りつつ、我が家のあたらしいスタッフの子猫に、幸運がつづくことを願っている。

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