IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

染の材料

研究所では、カンボジアで伝統的に使われてきた自然の染め材も、いくつか使っている。たとえば、赤を染めるための、ラックという介殻虫の巣。そして、黄色の染材は、ブロフーと呼ばれる、オトギリソウ科の木の表皮。それ以外にも、黒を染めるための有名なマクルアーの木の実。

しかし、常にあたらしい染材も探しつづけている。村で、自然染色の講習会を開いてもその持続性を考えると、手身近に手にはいる材料での染色が重要だ。その代表格が、バナナやヤシの実。熱帯のこのあたりでは、どこでも手にはいるもの。そして、しっかり、きれいな色が染まる。ガスや水道、そして電気なんかないのが当たり前、というのが現在の村の実情。燃料は薪や炭、水は井戸かため池。そこで目をつけたのが、薪。じつは、熱帯の木の中には、日本で言う合歓の木のような、マメ科の木の仲間が意外と多い。そして、とうぜん薪にされることも多い。マメ科の木は、茶系の色が染まるものが多く、染材としては大切なもの。種類によって、色もすこしずつ違う。村での講習会のとき、「染材は、、」と言いながら、その日の燃料用に村人が持ってきた、薪の山に目をやり、これ、と指をさす。

研究所の家の前には、アンコール遺跡をめぐってきたシアムリアップ川が流れている。その対岸、藁葺きの家が一軒、そして椰子の木やそんなマメ科の木も見かけられる。のんびりとした、田舎の風景がそこにある。良く見ると、その一角に、いつも山から切り出してきたばかりの材木が積んである家がある。自然の染めをやっている身としては、樹木は大切な恵の元。気になりはじめると、やはり落ち着かない。訪ねると、いや、積んである積んである。

このあたりでは、樹齢10年と言うと、直径で20センチ以上にもなる。そんな、樹齢5年から10年ぐらいの木が、可哀想に2メートルぐらいに切られ、山のよう。まわりを見ると、同じような家が何軒か、どこの家も、その広い庭先はそんな材木の山。いわゆる、家具や建材になるような高級な木はない。そんな、有用樹を切り出したあとの雑多な木をあつめて、薪にするために集められてきたもの。

シアムリアップのまあ、薪の卸屋さん街とでも言うのだろうか。それいらい、家から眺めながら、あたらしいトラックが何台か来たあとは必ず、わたしも新しい染材を求め、覗きに行く。そのなかには、染材としては貴重な、いい黒が染まる木もある。染材の宝庫を見つけてしまった、そんな気分である。

更新日時 : 2000年07月18日 13:52

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