IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

神の恵み

 この間、アイデアを整理しつつも、その一方では伝統の森計画を実施するにふさわしい土地を探し始めた。しかし、観光バブルに沸くシェムリアップでは、手が出る値段の土地はない。周辺の地域を含めて適当な所をと、約一年あちらこちらと見て歩いてきた。しかし、場所はよくても値段が一桁高くて、というケースがほとんど。そんなわけで土地探しもしばらく諦めかけていた頃、研究所のひとりの研修生から土地を買って欲しいという話が持ち込まれた。彼女はつい最近、ご主人を亡くし、研修をしばらく休んでいて復帰してきたばかりだった。値段の高い土地ばかり紹介されていたから、土地を見る前に値段を聞いた。そして驚いた。そして、現場を見て驚き、もう一度恐る恐る値段を聞き直した。即決。地元の人から見れば、それでも少し高い値段なのかもしれないが、これまでそんな値段は誰も提示してくれなかった。その4、5倍の値段ばかりであったから。わたしは、これも神の恵み、だと思った。

 2002年の7月、伝統の森計画はやっとそ計画の地を確定することができた。アンコールの遺跡群は、その後背にプノムクーレンという山並みを持つ。それは、アンコール王朝の始まりの地でもある。その山並みから流れ出るシェムリアップ川。その川の流れがバンティスレイ寺院を過ぎてアンコールトムに至る、その中間地点に位置する。シェムリアップの町からは、約22キロ北へ向かったところ。もとは森であったと思われるが、現在では潅木が茂るだけの荒地である。が、シェムリアップ川に近く、すぐ脇には小川もある。高台だが水の心配はないところに思える。約5ヘクタール(5万平方メートル)の土地に、桑畑と綿花畑、そしてラックカイガラムシのための森、そして自然染色のための木々や植物を植え、ゆくゆくはそばに小さな工芸のための集落を併設しようと思う。

更新日時 : 2003年3月 3日 10:22

前後の記事:<< 「伝統」と「森」の意味するもの | 素材を生かす思いやり >>
関連記事