IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男
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無念の雨

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研究所には、15歳から上は70歳までの研修生がいる。その、年長の70歳の新人研修生のおばあちゃんが亡くなった。心臓が悪かったようで、少し、最近からだの調子が良くないと、聞いていた。亡くなった日も、町の薬局で薬を買って飲んだようで、その薬が強かったのか、心臓発作が原因で亡くなったらしい。
研究所には最近、50代から60代の女性が新人の研修生で数人いる。彼女たちは身寄りがなく、生活に困っていることもあって、若い研修生に混じって生糸の仕事をしてもらっている。そんな年配組みの一人だった。身寄りは、13歳の孫娘がいるだけで、その子に毎日、自転車に乗せてもらって研究所に通ってきていた。研究所に来るまでは、自分でお菓子を作って、お皿を頭に載せて売リ歩いていた。研究所にも、最初はそんなお菓子売りのおばあちゃんの一人だった。そして気がつけば、研修生に混じって仕事をするようになっていた。初めの頃は、わたしに見られると恥ずかしそうに、そんなお菓子を前に並べて他の研修生に売りながら仕事をしていた。
亡くなったと知らせを聞いて、朝早く家に駆けつけた。ほんとうに小さな、小屋のような家に孫娘と住んでいた。孫娘の両親はやはり病気で亡くなったという。研修所のスタッフとお葬式に出かけた、ほんとうに質素なお葬式だった。遠くから、そのおばあちゃんの、妹だという年配の女性が身内でいただけ。研究所のみんなは、お葬式の費用のために袋を回して少しずつのお金を集めていた。そして研究所のしっかり者の女性が、お葬式を仕切っていた。そして、彼女がその孫娘も引き取るという。
そのお葬式を終えて、研究所に戻ってきたら、ものすごいスコールがやってきた。この乾季では珍しいほどの雨だった。雨季の始まりの、最初の雨のような。1時間ほど降り続いたその雨を見ながら、ふと、亡くなった彼女の無念の雨、そんな風に思えた。研究所には、わずか3ヶ月ほどしかいなかったのではないだろうか、でも、見ていて楽しそうだった、そのせいか死に顔もきれいなものだった。でも、そんな薬で急に死ぬことになって、残念だったのではないだろうかと思えた。そして、その雨がやんだ時研究所に訪問者が。おばあちゃんが、呼んでくれたような、そんな気がした。

更新日時 : 2003年4月26日 12:21

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