IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男
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コンピューター少女

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彼女はまだ17歳、研究所の研修生としては新人。研究所にやってきてまだ半年ぐらいである。彼女の現在の所属は会計。英語が少しできることもあって、コンピューター担当の予定で採用した。といっても、コンピューターなんか触ったことはない。研究所に来てから、パソコンを前にアルファベットを打つ練習を時間を見てはするようになった。パソコンのソフトは英語、だから英語の勉強もしながらのコンピューター少女の日々。研修生は仕事をしながら、技術を身につけてゆく。可能性があるか、もしくは向上心がある、そんな研修生をサポートすることが研究所の仕事でもある。彼女もそんな一人。
でも研究所の300人のスタッフのうちで、とりあえず英語のアルファベットを書ける女性は、10人と少し。そのほとんどは運良く中学校まで行けた、主にシエムリアップの町の子である。多くは周辺の農村部の比較的貧しい家庭からが多いから、小学校を行けたかどうかになる。そのうち50人ほどは、読み書きができず自分の名前もかけない。
研究所では、そんな研修生に給料を支払っている。まず彼女たちが食える、それを支えることが研究所の役割でもある。でもそうは言っても、研究所は充分な予算があって運営されているわけではない。特にこの間の数ヶ月の旅行者の激減のなかで、深刻な経済状態になっている。もともと、余裕がないから、毎月月末に決まった日に給料を全員に支払うことはできなかった。売り上げがあれば、早い者勝ちで、というと変だが、緊急度の高い人に優先的に支払いながらやってきた。だから、実質的には週給払いのようなかたちを取ってきた。なかには、家族の誰かが、事故や病気という場合は、全額か逆に前払いもするという形で支払ってきた。
その仕事は、わたしの仕事だった。普段は話すことが少ない研修生でも、そんな給料の支払いをしながら、研修生の個別の性格や事情も分るし、意味があった。しかし、このかん伝統の森も動き始めて、とてもそれだけに時間をとる余裕がなくなってきた。そんなとき、以前に会計担当だった女性が復職してきた。それを機会にその支払いの仕事を元会計の女性に任した。そしてアシスタントにコンピューター少女を。ところが、最近の彼女を見ていて生き生きしている。それは、そんな200人以上の研修生の日払いのような煩雑な仕事をテキパキとこなしている。カンボジアの女性は、どちらかといえば、シャイ。だから、他人に何かはっきりといえるという人は少ない。
でも彼女は違う、家族の誰が病気だ、明日のおかずを買うお金がない。といって毎日やってくる数十人の研修生を前に、片手にお金の束を握り締めながら、限られたお金の支払いをこなしてゆく。この間、売り上げがない日も多く今日は支払うお金が無いとシビアに冷たいこともいえてしまう、ときには修羅場。これも才能、生き甲斐を見つけたような気がする、と言えば失礼だろうか。彼女の母親も心臓病を病んでいる。だから彼女自身も、お金の苦労をいやというほどしてきているはず。

更新日時 : 2003年6月23日 13:02

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