2003年11月アーカイブ

引き抜き

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日本から戻ってきたときに空港に迎えに来てくれた研究所のスタッフが一言、数日したら何人かが辞めるだろうと話していた。そのとき、それ以上の詳しい話を彼は話したくないようだった。
そして、その日がやってきた。月末に当たる今日の朝から、数人の研究所では熟練組と呼んでいるタケオからの何人かが辞めたいという話を持ってきた。それも今日までデ。という突然の話であった。でも、事前に聞いていた分、わたしのショックは少なかった。
最近シエムリアップに、アミューズメントパーク風の文化村なるものが空港の途中にオープンした。そこは、たいそう大規模なものでなかにはコンクリートの山まで出来ている、そして蝋人形館まである。シエムリアップの新しい名所になりつつある。文化村というだけに、カンボジアの伝統工芸の実演展示販売もおこなわれるだろう。そこに、引き抜かれていくと言う。研究所の倍とまではいかないが、高給を提示されたらしい。心は動くだろうし、それを止めるすべをわたしは持っていない。
研究所の立場は、来るものは拒まず、去るものは追わず。だから、彼女たちの気持ちが動いたことを残念だが止めることは出来ない。噂では、あと数ヶ月で他にも声をかけられている織手もいるらしい。研究所のSARS以来の試練の時がまたやってきた。
師匠格のおばあたちも、そんなタケオからの熟練組の何人かに厳しい。そして、リーダー格に育った、シエムリアップの熟練者も動くものに厳しい言葉を投げている。行くつもりの何人かは、わたしに給料をおなじだけ出してくれるなら行きたくないという。でもすでに行きたいと思ったところに、彼女なりの理由があるのだから、わたしはそれをするつもりはない。研究所がカンボジアの伝統の復興のために仕事をしていることを自分も一緒にやりたいのだが、お金が足りないので、とつけくわえていた。それはそれで、研究所の仕事をそういう風に評価してくれていることに、逆にうれしかったが。
シエムリアップは、いまますます発展していこうとしている。カンボジアのシルク産業も海外から注目され始めてきている。来年早々にはシエムリアップで、シルクフェステェバルが予定されているほどである。あたらしい工房もこれから出来るようになるのではないだろうか。そして、タイにあるようなお土産物屋さんで織物の実演などというのも出てくるだろうから、研究所の研修生は、引き抜きの機会がもっと増えていくのではないかと思う。
大きな流れのようなものだから、それを止めることはもちろん出来るはずもない、むしろそんなして研究所の研修生が他の場所で、ほんとうに活躍して行ってくれれば、それは嬉しいことなのではないだろうか。そういう風に思い始めている。
仮にIKTTのいま作り出している布をコピーするつもりでもそれは簡単にできるものではない。それを彼らが目指した時に気づくはずである。
まだしばらくは、引き抜きの嵐はすぎていかないだろうから、様子を見るしかない。これもあたらしい季節の到来の知らせかもしれない。

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随分とご無沙汰いたしておりました、もうしわけございません。
いつも楽しみにして、読んでいただいている方がたくさんおられることを承知しながら、でした。
このかん、10月半ばの福岡、そして11月はじめの新潟から後半の東京、京都と3度も日本を往復しておりました。そしてほんとうにたくさんの方々とお会いすることが出来ました。ありがとうございます。
じつはわたしはこの短信を書けなかった2ヶ月ほどのあいだ、忙しさの傍らで、自分のなかで考えていることがあることに気がつきました。それが最初はわからず、なにを思っているのか見えなかったのです。そして、あるとき気がつきました。それは、ちょうど94年カンボジアにはじめて足を踏み入れてから10年が経とうとしていることに関わっていることに、そしてこの10年間のカンボジアの伝統の布の復元の仕事を進めてきた自分が、これからのあらたな10年に向けて気持ちの整理と準備を自分のなかでしていることに気がつきました。そのための腹を据える作業とでも言うのでしょうか、そんなことを自分でしていたようです。不思議なものです。
伝統の森、そしてあらたな村づくり、それがわたしのこれからの10年の仕事であると思います。どこまで行けるものかまだわかりませんが、体力の続く限りでしょうか。そして、研究所のあたらしいカンボジア人のリーダーたちを育てていくことも平行してやりきらなければと思っています。これからも皆さまの温かい眼差しとご支援ご協力をここにあらためてお願い申し上げます。

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