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IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

「ロレックス賞」受賞のご報告にかえて

 このたび、クメール伝統織物研究所が取り組んできたカンボジアの絣織りの復興と「伝統の森」再生計画が高く評価され、スイスのロレックス社から第 11 回「ロレックス賞」をいただくことができました。

 授賞式は、去る 9 月 29 日にパリで行なわれました。会場となったのは、シテ島にあるラ・コンシエルジュリというところ。かつては、マリーアントワネットが幽閉されていたことで有名な、歴史的建造物であります。とはいえ、監獄での授賞式ではなく、現在はコンサートホールなども併設された複合施設となっているそうです。

 わたしがカンボジアを初めて訪れてから、すでに 10 年になります。織物をやっている村を訪ねて、現地での草木染めの存在を知ったことがきっかけとなり、カンボジア・ユネスコからの委託による「カンボジアにおける絹織物の製造と市場の現況」調査の実施、タコー村での養蚕再開、それらがクメール伝統織物研究所の設立へとつながりました。2000 年には研究所をシェムリアップへ移転、さらには「伝統の森」再生計画の始動と、あわただしく過ごしてまいりました。

 現在までの取り組みがこのようなかたちで評価され、さらに前進せよと励まされたことは、わたしにとって非常に感慨深いものであります。そして研究所と「伝統の森」にいる約 500 人のスタッフたちにとっても、たいへん大きな励みになることでしょう。ありがとうございました。

 これまでの 10 年は、決して平坦な道のりではありませんでした。東北タイでの養蚕や草木染めプロジェクトの経験があったとはいえ、いつも試行錯誤の連続でした。カンボジアの不安定な社会情勢に揺れた時期もあります。運営面においても、研究所立ち上げの頃に、国際交流基金アジアセンターからのプロジェクト運営に関する助成と、外務省の草の根無償資金援助による助成をいただいたことで、なんとか設立にこぎつけたという面があります。また、トヨタ財団からの研究助成によって、地域比較という観点での調査と分析が可能になりました。有形無形にかかわらず、これらがもたらしたものは、研究所の第一期の活動における、大きな支えでありました。

 アンコール遺跡に抱かれたシェムリアップに研究所を移転してからも、アメリカのイラク侵攻や SARS の影響で観光客が激減し、布の売上げがまったくない日が、1 か月近く続いたこともあります。潤沢な運営資金があるわけでもなく、経営的には現在もなお自転車操業に近い毎日を送っています。

 そんななか、いつもあたたかいまなざしで見守っていただき、「桑の木基金」に絶えずご支援を続けていただいている方々、そして報告会や展示会で研究所の布をお買い上げいただいた方々には、本当に感謝しております(いつも言うことですが、布の売上げがわたしたち研究所の運営資金なのです。ですから、研究所の布をお買い求めいただいた方は、研究所のドナーでもあるのです)。

 そういった方々がいなければ、途中で力尽きていたかもしません。今のような精緻な絣布を制作できるようになったのも、“おばあ”たちの知恵と、これまでの経験の積み重ねによるものなのです。10 年続けてきたがゆえに、現在のわたしたちがあるのです。みなさま、ほんとうにありがとうございました。

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 今回のロレックス賞については「ナショナル・ジオグラフィック日本版」10 月号、あるいは 10 月 6 日の朝日新聞(東京版)朝刊をはじめ、複数の雑誌にも告知が出る予定と聞いております。ロレックス賞の詳細については、次のウェブサイトをご覧ください (http://www.rolexawards.jp) 。

 なお、今回の受賞を記念して、11 月 24 日(水)には、東京で講演会を開催することも決まりました。この詳細については、別途、ご紹介する予定です。


クメール伝統織物研究所 森本喜久男

更新日時 : 2005年10月 4日 16:51

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