養蚕の村で起きていること
カンボジアシルクフォーラムという団体がある。カンボジアでシルクを扱うNGOやショップが集まり結成された。わたしたちIKTTも参加している。ここ2年ほど、年に一度シエムリアップで開催されている「カンボジア・シルクフェア」も、この組織が中心になって開催されている。
先日、そのシルクフォーラムのミーティングが、シエムリアップからさらに西に80キロ、プノムスロックという小さな村で開催された。普段であれば、プノンペンでの月例が通常。そういう意味では異常事態。いったいなにが起こったのか。
プノムスロックは、カンボウジュ種の黄色い生糸を、昔ながらの方法で手引き生産している村として知られている。わたしも、96年のまだ完全に戦闘が終わっていない頃に、はじめて訪ねた。現在、IKTTも年間1トン近い生糸をこの周辺の村から買いつけている。発端は、その黄色い糸を、買い占めようとする動きが起こったことだ。シエムリアップにあるアーティザンダンコールという団体が、海外の企業からの依頼に応じて黄色い生糸を買い集めようと村に常駐のスタッフを派遣し、協力する村人に寝具を配ったりし始めたのだ。それを知った他のシルクフォーラムに参加するNGOやショップによるミーティングであった。生糸や布の供給地であるプノムスロックが、一企業に独占される――、そんな危機感からのミーティングだった。
パスというフランスの団体が、今回のミーティングを呼びかけた。彼らはプノムスロックの生糸生産農家を約8年かけて育ててきた。アーティザンダンコールも、もとはフランスからの援助(後にはEUからの援助)によって設立された団体だが(石工の養成などで知られている)、現在は空港内に大きなショップを展開するなど立派な企業に変身した。一方のパスは、NGOというか純粋に村の開発に取り組んできたところ。独占を狙うアーティザンアンコール、それに対するシルクフォーラム。
しかし、基本は自由市場であるから、どちらも村人に強制することはできない。アーティザンアンコールは、前払いで生糸を買い付けを始め、村人の囲い込みに出た。
親しい村人に聞いたところ、それになびいているのは約半分の生産農家。囲い込みはそんな簡単にできるものではない。だが、私たちIKTTも、この周辺の村から生糸を買っているので、囲い込みをされてしまうと困ってしまう事情は同じである。
この生糸買占め事件の原因となったアーティザンアンコールに生糸の買占めを依頼した企業は、以前IKTTにもコンタクトしてきたところ。しかし、わたしは断った。生糸という原材料の状態で海外に出すことに、現時点では賛成できないから。依頼した企業は中東のカーぺットメーカー。現在の中国の生糸では土足で踏んで100年持つような良質の物は作れない。生糸の質が落ちている。しかし、カンボジアの黄色い生糸は品種改良されていない、シルク本来の良さを持つ。それに目を付けたカーペット屋さんが買占めに走ったのだ。カンボジアの黄色い生糸の良さはこれからも世界中に知られていくだろう。そして、需要はまだまだ伸びていくに違いない。それはカンボジアの生産農家にとっていい話ではある。しかし、利益率の低い原材料の状態で出すのではなく、布にして売るほうが利益率は高くなる。そこまでしたほうが、村に落ちるお金も確実に増える。
でも、カーペット屋さんの思惑はまた別。
研究所でも、「伝統の森」で、自前の生糸の生産力を上げていくことに真剣に取り組む時期がやってきた。そんなことをミーティングに参加し考えた。
更新日時 : 2005年11月12日 11:02