IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所] Vol.083

2007/9/23 _____________________________________________________Vol.083

IKTT [INSTITUTE FOR KHMER TRADITIONAL TEXTILES]
________________________________________ http://iktt.esprit-libre.org/

みなさま、クメール伝統織物研究所の森本喜久男です。

《伝統織物の復元から、村の再生へ》
 恒例の「蚕祭り」の時期がやってくる。今年で4回目。毎年9月の満月の日
と決めている。
 伝統の織物の復元に携わる過程で、昔からカンボジアの村にあった養蚕を再
開し、黄色いカンボジアの生糸を産することができるようになった。しかし、
繭になった蚕を釜茹でにして、繭をほぐしながら生糸を引く。それは殺生とも
いえること。だが、その生糸で布を織り、売ることを生業として、わたしたち
IKTT(クメール伝統織物研究所)のスタッフ・研修生とその家族たちの生
活が成り立っているのも事実である。そこで、年に一度、その蚕に感謝の気持
ちを込めて、供養をしはじめた。それがこの「蚕祭り」の起源である。
 生糸は白いものという日本の常識が、このカンボジアでは黄色となる。古く
からカンボジアの村で飼われてきたその蚕。桑の葉を食べる蚕であることは、
日本や中国と同じ。しかし、その吐く糸は黄色い。その輝く色は、黄金の繭と
呼んでもおかしくない。
 そんな黄色い生糸で織られたカンボジアの絹織物は、しなやかで強い。そし
て、昔ながらの植物などによる、自然染料で染められた色は化学染料の色とは
違い、深みがありそんな簡単に退色することはない。その糸は、交配が進めら
れた現在の日本や中国の生糸とは別物ともいえる。昔ながらの絹の良さを備え
ている。それはドライクリーニングではなく水洗いできることでも実証されて
いる。昔の日本でもキモノは家で洗い張りしていたもの、そんな良さを備え持
つ生糸。それが、カンボジアの黄色い絹の特徴といえる。現代の一般的な市場
に出回っている、機械で生産される中国製の生糸と違い、手で糸が引かれた生
糸のその風合いはしなやかである。IKTTで布を手にされた方から、ひと昔
前の結城紬や黄八丈に似ていると、そんな評価をいただくようにもなった。
 カンボジアのすばらしい織物の世界。長い内戦のうちに、その伝統は消えか
けていた。しかし、わずかにその記憶を持つおばあたちの手で甦った。
 IKTTは、カンボジアの伝統織物を復元するために、村をまわり織物の技
術や経験を持った年配の女性を探しながら、1995年から活動を開始した。
失われた経験を呼び戻すことは、そんな容易なことではない。しかし、ジグソ
ーパズルの一片いっぺんを集めるようにしながら、再生に取りかかった。
 2000年には、現在のシエムリアップで、復元した技術を若い世代に伝え
るために工房を開設。当初は数人から始まった研修生の受け入れも、昨年には
500人を超える大所帯に。貧しい若い村人たちに仕事を作ることが、わたし
の仕事と考えながら。
 それは、農村部の貧しい家庭の女性たちを中心に、両親がいない、父親がい
ない女性たち、子どもを抱え旦那さんと死別・離婚した女性たちを、優先的に
受け入れてきた結果だった。現在も、工房には赤ん坊や子どもを連れて働きに
来ている女性がたくさんいる。それは、家に子どもをおいてくれば、お母さん
は家にいる子どものことが心配で仕事に身が入らないときがある。でもそばに
子どもがいれば、お母さんは安心して仕事に全力で打ち込むことができる。
 IKTTには、70歳前後のおばあたちも数人いる。彼女たちは師匠。遠く
離れたタケオ州の織物の村から、はるばるこのシエムリアップまで若い織り手
を育てるために来てくれている。タケオからの、熟練したお母さん織り手たち
もたくさんいる。そんな、タケオからの熟練者とシエムリアップで育ったお母
さんたちが、織物の復元の仕事を担ってくれている。三世代共同のコラボレー
ションが、カンボジアのすばらしい伝統の織物世界を創造している。
 カンボジアの織物の美、ART OF SILK。世界でもまれなカンボジアの絣織の
世界がいま甦り始めている。IKTTはそんな現場なのだ。
 伝統の織物の復元に取り組みながら、かつてのカンボジアの村には村の外か
ら何も買わなくても、布を生み出せる豊かな自然環境があったことが分かって
きた。織物に必要な素材のすべてが、昔は織り手の手の届くところにあった。
桑の木を植え、蚕を飼う。綿の木を育て、綿花から糸を紡ぐ。そして染めに必
要な植物、たとえば藍の木を植えるというように。それは村のなかで、再生産
可能なものとして、そこにあった。しかし、そんな豊かな自然環境や人々の経
験も、長い内戦の中で失われてしまった。その自然環境を取り戻すことなくし
て、過去のすばらしい織物の復元も達成できないことがわかってきた。
 2003年からは、シエムリアップの北、アンコールトムの遺跡からさらに
15キロ、バンテイスレイ寺院にほど近いシエムリアップ川のほとりで森の再
生の仕事に取り組み始めた。そこは、薪になる木まで切られてしまった荒地と
でも呼べるところ。残された樹木の切り株から甦る新芽を育てながら、下草を
刈り、間引きをしながら、もともとそこにあった自然林の再生に取り組み始め
た。すでに5年が経過し、小さな林と呼べるところまで育っている。
 それは、何千年何百年と受け継がれ育まれてきた森で暮らす人々の知恵。そ
の再生を目指し、あたらしい村づくりを開始した。その事業を「伝統の森・再
生計画」と呼んでいる。森は特別のものではない、昔はどこにでも森があった
はず。それは自然環境の象徴でもある。山があり、木や水があり、そこに暮ら
す動物たち、そして人々。
 森は自然の宝庫。布は、そんな森からの贈り物といえる。

                  2007年9月 シエムリアップより
                              森本喜久男

(1)「蚕祭り」のご案内
きたる9月27日の木曜日に「伝統の森」では恒例の「蚕祭り」を行います。
例年、わたしたちは9月の満月の日に、蚕供養を兼ねた「蚕祭り」を行なって
おります。今回の引越しを経て、工芸村エリアが生活の場として本格的に機能
し始めました。新しい段階に進みつつある「伝統の森」で、皆様とひとときを
すごせればと考えております。
※「伝統の森」は、アンコールトム郡プレックスナエ地区チョットサム村にあ
ります(これまで荒れ地だったところなので登記上の地番はありますが、住所
表示は明確ではありません)。シエムリアップの街から北へおよそ25キロ、
車で約1時間のところに位置しています。事前にご連絡いただければ、現地を
知るタクシードライバーをお手配することも可能です。


(2)イーストウエストセンター「リビング・アンコール」展のご案内
ホノルルにあるイーストウエストセンター(EAST-WEST CENTER)が9月30日
から開催する"Living Angkor" 展に合わせ、9月28日から一週間ほど、わた
しとスレンさんの2人がハワイへと向かいます。スレンさんは、ギャラリーで
の括りのデモンストレーションを、わたしは講演と布の展示販売を行なう予定
です。「リビング・アンコール」展は、9月30日から2008年1月17日
まで開催される予定です。

▼EAST-WEST CENTER
http://www.eastwestcenter.org/


(3)竹内英仁チャリティピアノリサイタルのご案内
昨年の12月3日に長野県飯田市において開催された「竹内英仁チャリティピ
アノリサイタル」の第2弾が開催されることになりました。
今回は、11月15日(木)、東京都文京区にあるトッパンホールで開催され
ます(カンボジアに学校をつくろうプロジェクト・NPOふるさと南信州緑の
基金・東京35会の共同主催となります)。すでに前売り券の販売も開始され
ています。
当日、会場のホワイエでは、研究所の活動紹介と、絣布の展示・販売も行なわ
れる予定です。今回も、竹内英仁さんのご厚意により、コンサートの収益の一
部は「伝統の森」での学校建設に充てられる予定です。

 と き:11月15日(木):開場:18時30分、開演:19時)
 ところ:トッパンホール(東京都文京区水道1-3-3トッパン小石川ビル)
 入場料:4000円(全席自由)
 ホールへのアクセス:JR飯田橋駅より徒歩約13分/地下鉄有楽町線・江
 戸川橋駅よりより徒歩約8分/地下鉄丸ノ内線南北線、後楽園駅よりより徒
 歩約10分/都営バス[上69][飯64]で「大曲・東五軒町」下車徒歩約3分
 【問合せ先ならびにチケットのお求め先】TEL.03-5393-7821(東京35会)

▼竹内英仁氏のWebサイト
http://www.hito-takeuchi.com/
▼トッパンホールへのアクセス
http://www.toppanhall.com/jp/information/access/index.html


(4)"FRONTLINE/WORLD"ウェブサイト公開のご案内
アメリカの公共テレビ局PBSの「FRONTLINE/WORLD」というドキュメンタリー番
組で私たちクメール伝統織物研究所が紹介されました。「Cambodia: The Silk
Grandmothers」というタイトルでまとめられています(英語版の番組ですが、
わたしはインタビューに日本語で答えています)。この番組は、ウェブサイト
上でも公開されています(約13分)。以下のURLから、ご覧になれるはずで
す(再生には、QuicktimeあるいはRealplayerが必要とのこと)。

▼「Cambodia: The Silk Grandmothers」
http://www.pbs.org/frontlineworld/rough/2007/06/cambodia_the_si.html


★★シエムリアップ・IKTTまでの歩き方★★
 オールドマーケット(プサー・チャー)の南側にあるタ・プローム・ホテル
の玄関前に立ち、右斜め前の方向に、道路を挟んで流れるトンレサップ川に沿
って進みます。現在、川岸の遊歩道整備が進んでいますので、足元に注意して
進んでください。道なりに(つまり川に沿って)歩くこと5〜6分で、右手に
「クメール伝統織物研究所」と日本語と英語で書かれた看板が見えてきます。
ここがIKTTです。(左側にクロコダイルファームの看板が見えてしまった
ら行き過ぎてしまいました。お戻りください)

2007年9月23日
クメール伝統織物研究所 森本喜久男
______________________________________________________________________
※なお、このメールマガジンにメッセージを返信されても、こちらではそのメ
ッセージを読むことができません。お問い合わせは以下のURLよりお願いいたします。
        http://iktt.esprit-libre.org/contact/

【メールマガジンの配信中止、アドレス変更は以下で行ってください】
        http://www.mag2.com/m/0000070073.html

●発行
INSTITUTE FOR KHMER TRADITIONAL TEXTILES
No. 472, Viheachen Village, Svaydongkum Commune,
(Road to lake, near the crocodile farm)
P.O. Box 9349, Siem Reap Angkor, Kingdom of Cambodia

※当メールに掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
※このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』
 を利用して発行されております。【 http://www.mag2.com/ 】
mag2 ID: 0000070073
Copyright (c) 2007 IKTT All rights reserved.

◎メコンにまかせ
のバックナンバー・配信停止はこちら
⇒ http://blog.mag2.com/m/log/0000070073/

更新日時 : 2007年9月23日 11:52

前後の記事:<< 【メコンにまかせ】クメール伝統織物研究所 Vol.082 | 【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所] Vol.084 >>
関連記事
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.141(2009年3月11日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.140(2009年2月 6日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.139(2009年1月25日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.138(2009年1月 4日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.137(2008年12月21日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.136(2008年12月15日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.135(2008年12月 9日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.134(2008年11月30日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.133(2008年11月22日)
【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.132(2008年11月13日)