IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

意匠

フランスの町を訪ねるといつも思うのは、石作りの町並みの美しさ。有名なノートルダム寺院、あれはたしかアンコールが建造された同じ時代のもの。その細部にわたる意匠にはあらためて驚かされる。そして、町のあちらこちらに残る素敵な意匠にあふれる古い寺院や建物。そのなかで、じつは今回気ずいたことがあった。

それは、カンボジアの内戦前の、というよりはフランスの植民地時代の面影の残るようなカンボジアの地方にある古い建物に共通したものが今回の、南フランスのリヨンの町の周辺の古い農家のような建物を見ながら、同じものがあることに気がついた。それは、屋根の先端に槍のような小さな塔が立っている。それと同じものが、あちこちに見かけられた。

そして、木造の高床式の家の屋根の軒先につける飾りも、とてもカンボジア的な意匠だと思っていたものが、じつは同じようなものが、リヨンの町のあちらこちらの家の窓の飾りとしてあることにも。

わたしからみれば、とてもカンボジア的な意匠だと思っていた、それらのものが、地元のフランスの人たちであれば、当然のように知っていたことなのかもしれないが、あらためて伝統や意匠が、時代とともに人や物の交流のなかで作られていくことを知った。それは、今風に言えば異文化交流とでもいえるのだろうか。

リヨンは、織物の歴史やシルクの伝統のある街。偶然泊まったホテルのサローンには、ふるい布の額が飾られ、なかには古い織機の道具の図版も飾られていた。それが、この街の歴史を物語る、そんな街。

まだ江戸時代、横浜の開港地にフランスの近代的な製糸機がもちこまれ、日本の近代養蚕業の歴史は始まった。そのきっかけを作ったのはこのリヨンの人たちである。

アジアンボヤージという旅行会社の一角に設けられたギャラリー、前回のパリでのギャラリーよりも一回り広く、持参した布を十分に飾ることができた。オープニングにも、織物関係の人たちも来ていただき、盛況だった。

合間を見つけて訪ねた、織物美術館には3-5世紀のエジプトの古布が飾られていた。そんな布をまじかで見ることができるのも、この街ならなのかもしれない。有名なエジプトの3世紀のとても写実的な魚の模様の織布を見ながら、しばらく見とれて、溜息をついてしまった。2000年近い年月が経ったものである。でも、その色の発色は今見てもとても美しいのである。自分で、自然の染料で布を染めていながらも、あらためて、そんな昔の人たちの仕事のすばらしさに、もういちど溜息、なのである。

パリの一流のコレクションのスカーフを作られている方のアトリエをお訪ねした。今の、リヨンを代表する店。わたしが首に巻いていた、IKTTの布を見て話はひとしきり、世界の生糸生産地の現状の話になった。カンボジアの黄色い生糸。そして、その後、ギャラリーを見に来ていただき、今年の9月にはシエムリアップへ、というところまで話は進んでしまった。世界のシルク業界の最前線で活躍されている、その方が、じつはギャラリーに展示してあった布とともに、IKTTのお絵かき組の存在にいたく、感心されていた。そして翌日の早朝に、彼の運転する車で、時速200キロ、郊外にある染色の工場を見に行くことになった。日頃、カンボジアのでこぼこ道を時速60キロぐらいで走っているわたしには、その近代的な染色工場を見るよりも軽いカルチャーショックだった。

オープニングセレモニーを終えた後、ギャラリーのオーナーでもある、アジアンボヤ-ジの社長さんから、おまえはうちのファミリーの一部だからというお言葉までいただいた。たくさんの訪問者をフランスから、おまえの伝統の森の村に送るからと、笑いながら。昨年の5月から一年、フランスでのIKTTの活動は確実に進化することができた。

そんな実感を今回のリヨンでの展示会でもつことができた。すべての人へ感謝。

更新日時 : 2008年5月24日 06:36

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