IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.115

2008/06/09___________________________________________________Vol.115 IKTT [INSTITUTE FOR KHMER TRADITIONAL TEXTILES] ______________________________________ http://iktt.esprit-libre.org/

みなさま、IKTT(クメール伝統織物研究所)の森本喜久男です。

◎あたらしい桑畑
 「伝統の森」の第5区に、100メートルX50メートル。わずか0.5ヘクター
ルだが、新しい桑畑が出来上がった。5メートルの道路も作ったから、植え
た桑の苗木の総本数は200本。これまでであれば、その面積であれば、そ
の4倍の量の苗木を植えてきた。しかし、今回は4メートル間隔で、ちょう
どマンゴーなどの果樹を植えるときの間隔である。
 普通、桑の木は低く剪定しながら、あたらしい枝が発芽したものを使う。
しかし、これは日本などの温帯で、主に春や夏に飼育するその生育に合わせ
たもの。熱帯のカンボジアの黄色い生糸を吐くカンボウジュ種と呼ばれてき
た蚕は、多化性。45日の卵から卵への蚕のライフサイクルを途切れなく続
ける。だから、一年で7回から8回の蚕を飼育する。だから、桑の木もフル
回転。ローテーションを組みながら順次、葉を収穫していく。
 95、96年の桑の木の調査で村をまわっていた頃、やはり村に大きく育
った桑の木を見かけることが多かった。桑の木は成長力の強い木といえる。
これも「生命の樹」のひとつ。豊かさをもたらすものである。養蚕が盛んな
プノムスロックの村でも、昔はそんな一本樹に大きく育てていることが普通
だったと聞いてきた。
 「伝統の森」では、これまで一般的な密生型の桑の植樹をしてきたが、今
回はそんな伝統的な桑の木の植樹法を試してみることにした。「伝統の森」
での生糸の生産力を上げていくために、桑の葉はその命。元気な桑の木を育
てることが大切で、重要な課題。
 約200本の桑の木は、ちょうど「伝統の森」にこられた関西地域のJC
日本青年会議所のかたがたに現場でのお手伝いをお願いしながら実現した。
アンコール時代から、雨季に増水する川の分岐点に位置していた伝統の森の
地域は、川の中州のようなところで本当に細かい砂地。ここで植物を育てて
いくことは、なかなか大変な場所。しかし、そこで、大きな大きな桑の木を
育てていくことが、これからの仕事になる。
 道路沿いには、マンゴーの苗木も植えた。最近はマンゴーの実の最盛期。
「伝統の森」再生計画を始めた頃に植えた、入り口に近い第一区の地域のマ
ンゴーはもう5年が過ぎ、たくさんの実がなりはじめ、みんなの胃袋に消え
ている。同じ頃に植えた50センチほどの大きさになる、ジャックフルーツ
の実も昨年辺りからたくさんなり始めている。
 もちろん基本は蚕のための桑畑だが、そんな果樹の類も自然染色用の植物
と同じように、伝統の森のあちらこちらに植えてきた。果実がなり始めたジ
ャックフルーツやマンゴーなどの木の多くは、じつはその実を食べたとき土
に植え育ったものである。
 最近も、そんなジャックフルーツの実を食べた後、みんなで150本の苗
木の準備をした。そして、作業をしながら、また5年後にはたくさんの実が
なり、食べられるのだからと笑いながら。
 雨季に入って、また道路の補修や整備の仕事も増えてきた。元気に働く、
森の若い衆と呼べる男性たち。あたらしく森の住人になった、織機の命、竹
筬を作る夫婦のために、あたらしく、わらぶきの作業舎も出来上がった。そ
して、社宅エリアのあたらしい台所や食事用の小さな建屋も補修整備した。
 数ヶ月前、生まれたばかりの赤ん坊を抱えた、子どもが7人総勢9人の家
族が「伝統の森」に住み始めた。社宅の二部屋だけでは足りなくてそばの木
の下で小さな女の子が毎日家族の食事を作っている。でも、その木の下も雨
季になればのんびり薪をおこして食事の準備というわけにはいかない。これ
からの雨季に備えて、その家族のために、あらたに台所スペースのある居間
兼食事用の小屋を作ってあげた。
 この家族は、タイに出稼ぎにでていたらしい。子どもたちも片言のタイ語
を話す。もともとはタケオ州の村の出身。口づてでここのことを知り、移り
住んできたらしい。流れてきたというほうが、正確な気がするが。でも慣れ
てきたら、よく気がつく働き者のお父さんの仕事振りを見ていて、そして二
人の上の娘さんは、すぐに織機に座り、織り始めた。
 もう一組、やはり最近転がり込んできた若い夫婦がいる。ちょうど、お正
月の数日前だった。普通だったら、お正月は村で家族とのんびり過ごしたい
はずが、森ですごしていた。やはりタケオ州出身で「伝統の森」にいる、師
匠格のおばあとは同じ村で顔見知りのようだった。ちょうど、タケオ組の長
屋の空き部屋があり、そこに住み始めた。奥さんは身重。「伝統の森」にた
どり着いたときには、一銭の手持ちのお金も持っていなかった。シエムリア
ップからのオートバイタクシー代もわたしが払ってあげた。そして当座の生
活費も。わたしから見れば、なんかわけありの、駆け落ちでもしてきたよう
な、若夫婦である。でも、ふたりとも元気でよく働く。
 あたらしい桑畑、そして新しい森の住人たち。そして、森で生まれてくる
生命、子どもたち。そんな、森での日々。皆様もぜひ機会がありましたら、
そんな「伝統の森」においでください。お待ちいたしております。
 そういえば、もうひとつ。念願の「伝統の森」のショップがなんとか仮オ
ープンまでこぎつけました。まだこれからですが、乞御期待。すてきなショ
ップにしていきたいと、思っております。


(1)『カンボジア絹絣の世界』が取り上げられました
 6月5日発売になった雑誌「チルチンびと」49号(2008年7月号)
の書評欄で『カンボジア絹絣の世界』が紹介されました。
 この雑誌に連載コラムを持つ建築家の泉幸甫さんは、以前、わたしがNH
Kラジオ深夜便に出演したときの放送を耳にして、わざわざシェムリアップ
まで訪ねていらっしゃった方でした。

▼「チルチンびと」49号
http://www.fudosha.com/publication/chilchinbito/cb/cb_049/cb049.html


(2)『カンボジア絹絣の世界』発売中
 『カンボジア絹絣の世界〜アンコールの森によみがえる村』が、NHKブ
ックスから発売になりました。前著『メコンにまかせ』から10年、ようや
くかたちにすることができました。多くの方たちから、続編は出さないのか
とたずねられておりましたから、これでようやく肩の荷がひとつ下ろせたよ
うな気がしております。
 早いもので、IKTTを設立してから12年になります。この『カンボジ
ア絹絣の世界』には、これまでわたしたちが取り組んできたこと、現在のI
KTTの状況、そして「伝統の森」再生計画が目指していることなどについ
て、かなりくわしく書いたつもりです。染め織りに関する描写もできるだけ
書き込みました。巻末には「IKTTの絣布ができるまで」と題し、桑の苗
を育て、養蚕をし、生糸を引き、それを括り、染め、織り上げるまでの工程
を、写真とともに簡潔に説明したページもつきました。本文中には「伝統の
森」の位置をプロットした「シエムリアップ周辺図」と、現状でいちばん詳
細な「伝統の森」の見取図も掲載されています。
 前著『メコンにまかせ』は、わたしがタイを訪れ、黄金の生糸に出会い、
そして東北タイの村びとたちと試行錯誤しながら染め織りを手がけてきたこ
とと、カンボジアユネスコのコンサルタントとして「カンボジア絹織物の現
状調査」を担当したことで、カンボジアの伝統織物が置かれた現状を知り、
その結果としてタコー村で伝統的養蚕の復活プロジェクトに取り組み、そし
てIKTTを設立するに至るまでのことが記されています。いわば、IKT
T前史とでもいえる内容でした。
 今回の『カンボジア絹絣の世界〜アンコールの森によみがえる村』が出版
されたことで、IKTTは何をやっているところなのか、そして森本はこれ
から何をしようとしているのか、というみなさまの疑問に対する、ひとつの
回答とさせていただけるのではないかと思っております。
 お近くの書店でお求めになり、お読みいただければ、幸いです。
□ 書 名:『カンボジア絹絣の世界〜アンコールの森によみがえる村』
□ 著 者:森本喜久男
□ 発行元:NHK出版(NHKブックス1102)
□ 価 格:970円(+税)
□ ISBN:978−4−14−091102−0 C1339


(3)リヨンでのエキシビションが始まりました
 フランスの旅行会社アジア・ボヤージが主催するギャラリー「エスパスア
ジア」での、IKTTの絣布を中心としたエキシビジョンがリヨンで始まり
ました。会期は5月21日から7月15日までの8週間です。皆様のお知り
合いなどいらっしゃいましたら、ご案内していただければ幸いです。
□ L'ESPACE ASIA / ASIA VOYAGES
□ address: 46, rue du President Edouard Herriot, 69002 Lyon
□ phone: 0033(0) 4 78 38 30 40
□ email: lyon@asia.fr


(4)"FRONTLINE/WORLD"ウェブサイト公開のご案内
アメリカの公共テレビ局PBSの「FRONTLINE/WORLD」というドキュメンタリー
番組で私たちクメール伝統織物研究所が紹介されました。「Cambodia: The
Silk Grandmothers 」というタイトルでまとめられています(英語版の番組
ですが、わたしはインタビューに日本語で答えています)。この番組は、ウ
ェブサイト上でも公開されています(約13分)。以下のURLから、ご覧に
なれるはずです(再生にはQuicktimeあるいはRealplayerが必要とのこと)
▼「Cambodia: The Silk Grandmothers」
http://www.pbs.org/frontlineworld/rough/2007/06/cambodia_the_si.html


____________________ I N F O R M A T I O N _________________________

★★ショップ&ギャラリーの営業時間のご案内★★
シエムリアップのIKTTのショップ&ギャラリーの営業時間は朝8時から
夕方6時まで(年中無休)です。工房の見学を希望されるかたは、平日の朝
9時から夕方5時まで(正午から午後2時までは昼休み、日曜日はお休み)
の間にお越しください(できるだけ事前にご予約をお願いします)。

★★★シエムリアップ・IKTTまでの歩き方★★★
オールドマーケット(プサー・チャー)の南側にあるタ・プローム・ホテル
の玄関前に立ち、右斜め前の方向に、道路を挟んで流れるトンレサップ川に
沿って進みます。川岸には遊歩道が整備がされています。道なりに(つまり
川に沿って)歩くこと5〜6分で、右手前方に「クメール伝統織物研究所」
と日本語と英語で書かれた看板が見えてきます。ここがIKTTです。(左
側にクロコダイルファームの看板が見えたら行き過ぎてしまいました。お戻
りください)

★★★★ピアックスナエン・「伝統の森」への道のり★★★★
「伝統の森」は、シエムリアップの町から北へ約30キロ、車で約1時間の
ところにあります。アンコールワットを右に見て進み、アンコールトムの南
大門をくぐり四面仏の尊顔が微笑むバイヨン寺院を通り越し、さらに北へ。
プリアカン寺院の門前を過ぎて道路が大きく右にカーブした先に、左に折れ
る一本道が現われます。この道を約10キロ、途中何度か川を渡り、左手の
木立の間にお寺が見えたらすぐ先の道を右へ。曲がり角に設置してあるIK
TTとMORIMOTOの名前の入った緑色の看板を確認してください。こ
こから約4キロ、ふたたび川を渡り、しばらく行くと右手に「伝統の森」の
入口が現われます。シエムリアップの町から「伝統の森」まで、タクシーで
往復40〜50ドルが相場です(シエムリアップ基点で請求されるので片道
でも料金は同じです)。なお、『カンボジア絹絣の世界』p.116 にある「シ
エムリアップ周辺図」にも「伝統の森」の位置がプロットされております。
こちらも参考にしてください。

2008年6月9日
クメール伝統織物研究所 森本喜久男

●発行
IKTT (INSTITUTE FOR KHMER TRADITIONAL TEXTILES)
No. 472, Viheachen Village, Svaydongkum Commune,
(Road to lake, near the crocodile farm)
P.O. Box 9349, Siem Reap Angkor, Kingdom of Cambodia

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※このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』
 を利用して発行されております。【 http://www.mag2.com/ 】
mag2 ID: 0000070073
Copyright (c) 2008 IKTT All rights reserved.

◎メコンにまかせ
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更新日時 : 2008年6月 9日 10:13

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