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IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

あたらしい桑畑

伝統の森の第5区に100メートルX50メートル。わずか0.5ヘクタールだが、新しい桑畑が出来上がった。

5メートルの道路も作ったから、植えた桑の苗木の総本数は200本。これまでであれば、その面積であれば、その4倍の量の苗木を植えてきた。しかし、今回は4メートル間隔で、ちょうどマンゴーなどの果樹を植えるときの間隔である。

普通、桑の木は低く剪定しながら、あたらしい枝が発芽したものを使う。しかし、これは日本などの温帯で、主に春や夏に飼育するその生育に合わせたもの。熱帯のカンボジアの黄色い生糸を吐くカンボウジュ種と呼ばれてきた蚕は、多化性。45日の卵から卵への蚕のライフサイクルを途切れなくつつける。だから、一年で7回から8回の蚕を飼育する。だから、桑の木もフル回転。ローテーションを組みながら順次、歯を収穫していく。

95、96年の桑の木の調査で村をまわっていた頃、やはり村に大きく育った桑の木を見かけることが多かった。桑の木は成長力の強い木といえる、これも、「生命の樹」のひとつ。豊かさをもたらすものである。養蚕が盛んなプノムスロックの村でも、昔はそんな一本樹に大きく育てていることが普通だったと聞いてきた。

伝統の森では、これまで一般的な密生型の桑の植樹をしてきたが、今回はそんな伝統的な桑の木の植樹法を試してみることにした。伝統の森での生糸の生産力を上げていくために、桑の葉はその命。元気な桑の木を育てることが大切で、重要な課題。

約200本の桑の木はちょうど、伝統の森にこられた関西地域のJC日本青年会議所のかたがたの現場でのお手伝いをお願いしながら実現した。アンコール時代から、雨季に増水する川の分岐点に位置していた伝統の森の地域は、川の中州のようなところで、本当に細かい砂地。ここで植物を育てていくことは、なかなか大変な場所。しかし、そこで大きな大きな桑の木を育てていくことが、これからの仕事になる。

道路沿いにはマンゴーの苗木も植えた。最近はマンゴーの実の最盛期。伝統の森計画を始めた頃に植えた、入り口に近い第一区の地域のマンゴーはもう5年が過ぎ、たくさんの実がなりはじめ、みんなの胃袋に消えている。同じ頃に植えた、50センチほどの大きさになる、ジャックフルーツの実も昨年辺りからたくさんなり始めている。

もちろん基本は、蚕のための桑畑だが、そんな果樹の類も自然染色用の植物と同じように、伝統の森のあちらこちらに植えてきた。果実がなり始めたジャックフルーツやマンゴーなどの木の多くは、じつはその実を食べたとき土に植え育ったものである。最近も、そんなジャックフルーツの実を食べた後、みんなで150本の苗木の準備をした。

そして、作業をしながら、また5年後にはたくさんの実がなり、食べられるのだからと笑いながら。

雨季に入って、また道路の補修や整備の仕事も増えてきた。元気に働く、森の若い衆と呼べる男性たち。あたらしく森の住人になった、織機の命、竹筬を作る夫婦のために、あたらしく、わらぶきの作業舎も出来上がった。そして、社宅エリアのあたらしい台所や食事用の小さな建屋も補修整備した。数ヶ月前、生まれたばかりの赤ん坊を抱えた子どもが7人、総勢9人の家族が伝統の森に住み始めた。社宅の二部屋だけでは足りなくてそばの木の下で小さな女の子が毎日家族の食事を作っている。でも、その木の下も雨季になればのんびり薪をおこして食事の準備というわけにはいかない。これからの雨季に備えて、その家族のために、台所スペースのある居間兼食事用のあらたに小屋を作ってあげた。

この家族は、タイに出稼ぎにでていたらしい。子どもたちも片言のタイ語を話す。もともとはタケオ州の村の出身。口ずてでここのことを知り、移り住んできたらしい。流れてきたというほうが、正確な気がするが。でも慣れてきたら、よく気がつく働き者のお父さんの仕事振りを見ていて、そして二人の上の娘さんは、すぐに織機に座り、織り始めた。

もう一組、やはり、最近転がり込んできた、若い夫婦がいる。ちょうど、お正月の数日前だった。普通だったら、お正月は村で家族とのんびり過ごしたいはずが、森ですごしていた。やはりタケオ州出身で、伝統の森にいる、師匠格のおばあとは同じ村で顔見知りのようだったちょうど、タケオ組の長屋の空き部屋があり、そこに住み始めた。奥さんは身重。伝統の森にたどり着いたときには、一銭の手持ちのお金も持っていなかった。シエムリアップからのオートバイタクシー代もわたしが払ってあげた。そして、当座の生活費も、わたしから見れば、なんかわけありの、駆け落ちでもしてきたような、若夫婦である。でも、ふたりとも元気でよく働く。

あたらしい桑畑、そして新しい森の住人たち。そして、森で生まれてくる生命、子どもたち。そんな、森での日々。皆様もぜひ機会がありましたら、そんな伝統の森においでください。お待ちいたしております。そういえば、もうひとつ念願の、伝統の森のショップがなんとか仮オープンまでこぎつけました。まだこれからですが、乞御期待、すてきなショップにしていきたいと、思っております。

更新日時 : 2008年6月 9日 13:31

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