IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

【メコンにまかせ】IKTT [クメール伝統織物研究所]Vol.121

2008/08/07___________________________________________________Vol.121 IKTT [INSTITUTE FOR KHMER TRADITIONAL TEXTILES] ______________________________________ http://iktt.esprit-libre.org/

みなさま、IKTT(クメール伝統織物研究所)の森本喜久男です。

 昨年、カナダのラジオ局(CBC Radio)からインタビューを受けた。 その
ときの放送が再放送されているらしく、それを聴いたという方からメールを
いただいた。なんと、カナダのバンクーバーで開催されるシンポジウムでの
講演の依頼である。ありがたいこと。
 この9月末にはフランスのトゥールーズへ出かける。パリ、リヨンに続い
ての、アジア・ボヤージ主催の展示会のオープニングに出席する。
 IKTT Germanyのインゲさんからは、1月に出版した英語版「Bayon Moon」
のドイツ語訳が送られてきた。
 夏休みに入り、日本から「伝統の森」への訪問客が増えてきました。みな
さま、ありがとうございます。スタディツアーの申し込みや、9月の「蚕ま
つり」への参加申し込みもいただいています。
 秋の恒例となった、11月の京都・法然院での展示会のスケジュールも決
まりました。今年は21日(金)から23日(日)の3日間です(報告会の
日程については調整中)。みなさま、紅葉の京都で、お会いしましょう。


◎手の仕事
 カンボジアの伝統の絹絣の仕事をしながら、あらためて手でする仕事のこ
とを考えるようになった。伝統の絣の柄は基本は母から子へ受け継がれてき
た。そして、そこには下絵になるようなものはない。すべてが、手の記憶に
よるものである。
 こんな経験をしたことがある。96年、まだIKTTの活動を始めたばかりの頃
のこと。優れた経験のある織り手を探して、タケオ州の織物の盛んな村を回
っていたとき。これぞという腕を持つ年配の織り手に、持参した古い絣の布
を見せ、わたしの布は古くなってしまったので、この布と同じものを織って
ほしいと頼んだ。そのやりとりを見ていた隣の雑貨屋のおじさんが、とつぜ
ん自分もと、絣の柄を括り始めた。
 彼が括りを始めた直接の動機は、わたしがその年配の女性に、通常の仲買
人が支払う数倍の手間賃を払うことを知ったからであった。そして、彼の母
親は内戦の中ですでに他界していたが、村でも腕のいい織り手であったらし
い。そして、彼は子どものころに母親の絣の括りを一緒に手伝っていた。彼
の手に伝統の絣の柄が記憶されていたのであった。
 彼が括りだした伝統の柄。それは唐草風の囲いの中に花柄がアレンジされ
た風格のある柄。それは、それまで、どこでも見かけられなかった柄でもあ
った。こんな風に、手の記憶が伝統の柄を蘇らせていく。
 手には皮膚感覚があり、脳とつながり身体の一部として常に機能する。記
憶する手とは、道具としてではなく身体そのものといえる。手でものを作る
という、人としての根源的な動作の結果である。
 動作の積み重ねとしての経験値の蓄積が記憶として形作られていく。そし
て、やはり経験値としての美への意識がそこに重なりながら、手の記憶とし
ての絣の柄が生み出されていく。
 そうして、もうひとつ大切なことは、動機としての欲。
 しかし、美はひとつではない。多様な、異なる美意識が存在している。タ
ケオの織り手が好む、正確な細かい模様の繰り返しの中に感じる美と、チャ
ムの織り手の好む大胆な柄は、対極の美意識といえる。そして、その融合が
カンボジアの絣のすばらしい世界を形作ってきた。
 それは、何世代にわたり身体のなかにインプットされてきた世界があるこ
とを意味する。しかし、同時にそれさえも、何世代にもわたる経験値の蓄積
なのだが。
 手の記憶をたどりながら、身体の一部としての手でものを作るということ
の意味のようなことに、いま思いをめぐらせている。


◎誇りを取り戻すこと
 研修生を受け入れるとき、働くことへの強い意思のある、本当に仕事がお
金が必要な人々に、働く場所を提供するようにしてきた。結果的には、貧し
くて学校に行けずに読み書きができないでいた人。両親や父親のいない人、
障害を持っている人などが中心となっている。子どもを抱えたお母さんたち
にも、赤ん坊や子どもを抱えて仕事に来
ることができる環境を提供してきた。
 それは、貧しい人々に仕事を提供するということ。そのことでみんなが、
その家族が食べていける。そして、それだけではなく、自らの文化と伝統の
経験を学びながら、人としての誇りを取り戻すことでもある。
 貧しさのなかでなお、お金のことをときに忘れて、自分の手で働き、生き
ていく。そんな人生を歩むために、数百年、数千年の人々の豊かな知恵をと
りもどすことができればと思う。
 染めや織り、そして織りの道具を作るにとどまらず、蚕を飼う養蚕、綿花
の栽培や藍染。そして、家を建てる大工や左官、畑仕事に精を出す男たち。
彼らや彼女たちは、村の専門化された職能集団でもある。それらはすべて、
伝統の知恵の中にあったもの。
 ただ食うために技術を身につけるのではなく、さらに磨かれ高度化するこ
とで価値ある物を生み出していく。
 「伝統の森」の日々の生活のなかで生み出される布は、100年前のカン
ボジアの人たちの叡智の復元でもあり、その復権とも言える。ぜひ、その布
を手にとり、まとってみてください。
 ほんとうに心のこもった手の仕事がもたらす、確かなぬくもりが、そこに
は宿っている。


(1)「伝統の森」にショップがオープンしました
 新たに、「伝統の森」に、ショップがオープンしました(シエムリアップ
のショップ&ギャラリーが移転したわけではないので「伝統の森」にまで足
をのばす時間のない方は、これまでどおりシェムリアップのショップへお越
しください)。
 森のショップの営業時間は朝7時から夕方4時までです。お越しになる場
合は、できるだけ事前にご連絡をお願いいたします。
 なお、「伝統の森」では農作業が中心となるため、全体の作業開始が朝7
時、作業終了を4時としています(昼休みは11時から1時まで。日曜日は
森の仕事も工房もお休みです)。


(2)「蚕まつり」とその前夜祭のご案内
 わたしたちIKTTは、これまで「伝統の森」で、9月の満月の日に「蚕
まつり」を行なってきました。ご存知のとおり、わたしたちは、カンボジア
伝統の絹織物を制作しています。そして、その絹織物を販売することで、わ
たしを含め400人以上の研修生たちの生活が成り立っています。いわば、
お蚕さんに「食べさせて」もらっているのです。
 しかし、生糸を取るためには、お蚕さんを繭のまま釜茹でにします。つま
り殺生をすることになります。カンボジアでは多くの人たちが敬虔な仏教徒
です。仏教徒にとって、殺生はしてはならないことのひとつです。わたしが
13年前、カンポットのタコー村で伝統的養蚕を再開しようとしたときも、
村びとのなかから「殺生するのはいや」という声がありました。しかし、わ
たしは、これは無益な殺生ではないのだ、わたしたち自身がそれで生かされ
ているのだ、と村びとたちに説明したのです。
 2003年7月、「伝統の森」で養蚕が始まり、はじめて生糸ができたと
き、わたしはそのことを思い出しました。そして、わたしたちがこの地でア
ンコールの神がみに生かされていることに感謝し、さらにはお蚕さんに生か
されていることに感謝して、蚕供養をしようと思い立ちました。古い中国の
資料にも、蚕を祭る儀式があったことが記されています。ベトナムや中国に
は、蚕寺があるそうです。養蚕が盛んだった地域に蚕を祭る習慣があったと
しても不思議ではありません。
 それ以来わたしたちは、9月の満月の日に「蚕まつり」を催すことにしま
した。午前中は、おばあたちが中心となってお蚕さんを供養する儀式を行な
い、IKTTの研修生全員で昼食をとります。食事の準備もみんなで分担し
て行ないます。食事のあとは、青空ディスコで盛り上がるのが定番となりま
した。今年は、9月15日がその満月の日です。
                *
 さらに今年は、その前夜祭として「伝統の森」でファッションショーを開
催します。
 これまでは、カンボジアシルクフォーラムという団体の主催で、シエムリ
アップのグランドホテルを会場に、アンコールシルクフェアが開催されてき
ました。カンボジアシルクフォーラムというのは、カンボジア国内のシルク
に関係する団体(養蚕を支援するNGOから、絹織物を制作販売する会社、
テキスタイルデザイナー、そしてアンティークシルクを販売するショップな
ど)によって設立された、カンボジアシルクのプロモーションを行なう団体
です。そして、シルクフェアのメインイベントともいえるのが、ファッショ
ンショーでした。IKTTも、2回目以降、このファッションショーに参加
してきました。その基本にあるのは「自分たちが織り上げた布を、自分たち
でまとって、ステージに立つ」ということです。自分たちの作っているもの
はこんなにもすばらしいものなのだということを、IKTTのひとりひとり
にも理解してほしいからです。
 しかし、4回まで続いたアンコールシルクフェアのファッションショーも
今年2008年は開催できずにいます。そこで今年は「伝統の森」に簡単な
ステージを作り、IKTT独自に、ファッションショーを開催することにし
ました。また、ファッションショーのプレイベントとして、IKTTの子ど
もたちの勝ち抜きダンスコンテンストも予定しています。この子どもたちの
勝ち抜きダンスコンテストは、子どもたちに思い思いのダンスを披露しても
らい、それを客席からのゲスト審査員とともに審査します。勝ち抜いた優勝
者には、景品を用意する予定です。
 それぞれのイベントの詳細、そしてタイムテーブルなどについては現在調
整中ですが、子どもたちのダンスコンテストの開始を18時、ファッション
ショーを19時半開始(20時終了)くらいを考えています。また、翌朝の
蚕供養については、朝7時くらいにお坊さんの読経が始まることになると思
います。みなさま、「伝統の森」の蚕まつりに、そして「伝統の森」のファ
ッションショーに、ぜひともお越しください。お待ちしております。


(3)伝統の森「蚕まつり」ツアーのご案内
 これまでに多くのエコツアー・スタディツアーを企画されてきた日本エコ
プランニングサービスが、9月に行なわれるIKTTの「蚕まつり」にあわ
せたツアーを企画されました。ツアーの詳細については、以下のサイトをご
覧いただくか、日本エコプランニングサービス(tel:03-5807-1691)にお問
い合わせください。

▼カンボジア IKTT伝統の森「蚕まつり」ツアー
http://www.jeps.co.jp/cambodia/IKTT_08sep.html


(4)『カンボジア絹絣の世界』発売中
 『カンボジア絹絣の世界〜アンコールの森によみがえる村』が、NHKブ
ックスから発売になりました。前著『メコンにまかせ』から10年、ようや
くかたちにすることができました。多くの方たちから、続編は出さないのか
とたずねられておりましたから、これでようやく肩の荷がひとつ下ろせたよ
うな気がしております。
 早いもので、IKTTを設立してから12年になります。この『カンボジ
ア絹絣の世界』には、これまでわたしたちが取り組んできたこと、現在のI
KTTの状況、そして「伝統の森」再生計画が目指していることなどについ
て、かなりくわしく書いたつもりです。染め織りに関する描写もできるだけ
書き込みました。巻末には「IKTTの絣布ができるまで」と題し、桑の苗
を育て、養蚕をし、生糸を引き、それを括り、染め、織り上げるまでの工程
を、写真とともに簡潔に説明したページもつきました。本文中には「伝統の
森」の位置をプロットした「シエムリアップ周辺図」と、現状でいちばん詳
細な「伝統の森」の見取図も掲載されています。
 前著『メコンにまかせ』は、わたしがタイを訪れ、黄金の生糸に出会い、
そして東北タイの村びとたちと試行錯誤しながら染め織りを手がけてきたこ
とと、カンボジアユネスコのコンサルタントとして「カンボジア絹織物の現
状調査」を担当したことで、カンボジアの伝統織物が置かれた現状を知り、
その結果としてタコー村で伝統的養蚕の復活プロジェクトに取り組み、そし
てIKTTを設立するに至るまでのことが記されています。いわば、IKT
T前史とでもいえる内容でした。
 今回の『カンボジア絹絣の世界〜アンコールの森によみがえる村』が出版
されたことで、IKTTは何をやっているところなのか、そして森本はこれ
から何をしようとしているのか、というみなさまの疑問に対する、ひとつの
回答とさせていただけるのではないかと思っております。
 お近くの書店でお求めになり、お読みいただければ、幸いです。
□ 書 名:『カンボジア絹絣の世界〜アンコールの森によみがえる村』
□ 著 者:森本喜久男
□ 発行元:NHK出版(NHKブックス1102)
□ 価 格:970円(+税)
□ ISBN:978−4−14−091102−0 C1339


(5)"FRONTLINE/WORLD"ウェブサイト公開のご案内
アメリカの公共テレビ局PBSの「FRONTLINE/WORLD」というドキュメンタリー
番組で私たちクメール伝統織物研究所が紹介されました。「Cambodia: The
Silk Grandmothers 」というタイトルでまとめられています(英語版の番組
ですが、わたしはインタビューに日本語で答えています)。この番組は、ウ
ェブサイト上でも公開されています(約13分)。以下のURLから、ご覧に
なれるはずです(再生にはQuicktimeあるいはRealplayerが必要とのこと)
▼「Cambodia: The Silk Grandmothers」
http://www.pbs.org/frontlineworld/rough/2007/06/cambodia_the_si.html


____________________ I N F O R M A T I O N _________________________

★ショップ&ギャラリーの営業時間のご案内★
シエムリアップのIKTTのショップ&ギャラリーの営業時間は朝8時から
夕方6時まで(年中無休)です。工房の見学を希望されるかたは、平日の朝
9時から夕方5時まで(正午から午後2時までは昼休み、日曜日はお休み)
の間にお越しください(できるだけ事前にご予約をお願いします)。

★★シエムリアップIKTTまでの歩き方★★
オールドマーケット(プサー・チャー)の南側にあるタ・プローム・ホテル
の玄関前に立ち、右斜め前の方向に、道路を挟んで流れるトンレサップ川に
沿って進みます。川岸には遊歩道が整備がされています。道なりに(つまり
川に沿って)歩くこと5〜6分で、右手前方に「クメール伝統織物研究所」
と日本語と英語で書かれた看板が見えてきます。ここがIKTTです。(左
側にクロコダイルファームの看板が見えたら行き過ぎてしまいました。お戻
りください)

★★★「伝統の森」ショップの営業時間のご案内★★★
新たに、「伝統の森」に、ショップがオープンしました。森のショップの営
業時間は、朝7時から夕方4時までです。年中無休ですが、お越しになる場
合は、できるだけ事前にご連絡をお願いいたします。(アクセス方法につい
ては、以下の「伝統の森」への道のりをご覧ください)

★★★★ピアックスナエン・「伝統の森」への道のり★★★★
「伝統の森」は、シエムリアップの町から北へ約30キロ、車で約1時間の
ところにあります。アンコールワットを右に見て進み、アンコールトムの南
大門をくぐり四面仏の尊顔が微笑むバイヨン寺院を通り越し、さらに北へ。
プリアカン寺院の門前を過ぎて道路が大きく右にカーブした先に、左に折れ
る一本道が現われます。この道を約10キロ、途中何度か川を渡り、左手の
木立の間にお寺が見えたらすぐ先の道を右へ。曲がり角に設置してあるIK
TTとMORIMOTOの名前の入った緑色の看板を確認してください。こ
こから約4キロ、ふたたび川を渡り、しばらく行くと右手に「伝統の森」の
入口が現われます。
※2008年7月現在、シエムリアップの町から「伝統の森」までタクシー
で往復40〜50ドルが相場です(郊外に向かうタクシー料金は、シエムリ
アップ基点で請求されるので片道でも料金は同じです)。なお、シエムリア
ップからアンコール遺跡群へ向かう途中で立ち寄る通行証のチェックゲート
で「ピアックスナエンの養蚕の村へ行く」と説明すれば、通行証を購入しな
くてもゲートを通過できるはずです。
※『カンボジア絹絣の世界』p.116 の「シエムリアップ周辺図」にも、「伝
統の森」の位置がプロットされております。こちらも参考にしてください。

2008年8月7日
クメール伝統織物研究所 森本喜久男

●発行
IKTT (INSTITUTE FOR KHMER TRADITIONAL TEXTILES)
No. 472, Viheachen Village, Svaydongkum Commune,
(Road to lake, near the crocodile farm)
P.O. Box 9349, Siem Reap Angkor, Kingdom of Cambodia

※当メールに掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
※このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』
 を利用して発行されております。【 http://www.mag2.com/ 】
mag2 ID: 0000070073
Copyright (c) 2008 IKTT All rights reserved.

◎メコンにまかせ
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⇒ http://archive.mag2.com/0000070073/index.html
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更新日時 : 2008年8月 7日 13:01

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