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IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

伝統の森・蚕祭り前夜祭印象記

伝統の森・蚕祭り前夜祭印象記在カンボジアの日本人NGOワーカーズ・ネットワーク(JNNC)のメンバーである「るしな・こみゅにけーしょん・やぽねしあ」の松本清嗣さんが、JNNC会員向けのメールマガジンに「すばらしかったので、来年は絶対、みなさんでいきましょう」とのコメントつきで、前夜祭の様子のルポを掲載されました。松本さんの承諾を得て、ここに転載させていただきます。

伝統の森へは午後3時過ぎに出発した。プノンペンからのJNNCメンバー8名と大隅さんと僕。そして、ニームの会のクメール人スタッフ1名。以前と比べると道は格段によくなり、約1時間で到着できる、と言う。カンボジア人としてはめずらしく慎重な運転をするドライバーは、バンテアイ・スレイへのルートではなく、アンコールトム・バイヨンを抜けるルートをとった。最近よく降る雨で道は傷んではいたが、以前と比べると格段によくなっているのだろう。結局、1時間半で到着。

伝統の森は広い(約24ha)。大きな木は切られてしまい、潅木しか生えていない土地に桑を植えた。道も自分たちで切り開いた。小さな集落(家が数軒)が二つ、恐らく桑葉の収穫、桑の植樹等の作業者の集落なのだろう。まがった道を越えた奥が工房のエリア。いくつかの建物が立ち並んでいるが、クメール農村でよく見られる高床型の木造家屋群であり、小洒落たペンションが立ち並ぶ、といったイメージとは違う。

森本さんのお話を聞き、「宇宙船地球号」のヴィデオを見る。失われてかけていた伝統的な蚕、そして、染色、織物技法を、それを伝えていたおばあちゃんを見つけ出し、様々な技法を思い出してもらい、再興する。「森本さんがいい人だから手伝ってあげよう、と思った」とおばあちゃんは素朴に言う。

夕食を頂いている最中にかなり激しい雨が降り、雷が鳴る。夕食はテント張りの丸テーブル。これは、近くの村から調達しているのか、それとも自前で持っておられるのか? 他の集落からそこそこ離れているので、いちいち物資調達のことが気になる。例えば、前夜祭のためのPAとか。

前夜祭は、ステージの上でたくさんの子どもたちが団子状態になってのダンスで始まる。ラップで子どもたちが思い思いに踊る。見事に、かわいい。堂に入っている子もいれば、恥ずかしくて内側ばかり向いている子もいる。ここが人里離れた農村であることを思うと、微笑ましい。子どもたち・若者たちにとって、都市・農村の違いという地域性より、同時性が圧倒的に強いことを感じさせる。多少の余裕さえあれば、都会と同じ踊りを踊り、歌を歌う。子どもたちのテンポの速い三曲。

そして、スタッフ&ヴォランティアの人々の合奏。クメールの伝統的なマリンバ。フルート、キーボード、そして、缶やフライ用の中華なべなどで作った手作りのパーカッションセット。譜面立ても段ポールで作り、椅子を逆さにして、その足に差し込んで作られている。何でも買わないといけない、という風潮とは距離を置く誇りをそこに感じる。

演奏はパッフェルベルのカノンから。マイクで音を拾えなかったので、トタン屋根に当る激しい雨音にかなり打ち消される。集まったクメール人たちも容赦なくおしゃべりをするので、演奏の効果はかなり消されてしまうが、それでもよい演奏だった。途中、パーカッションは、レゲエのような、「おっとっと」リズムで、脱構築する。ひょうきんで、でも、それは、紛いもなく、パッフェルベルのカノン。クメール・マリンバの少々音程の外れたところも、ピタッと音を決めてしまわないポスト・モダンか。ベリー・ナイスでした。

スタディツアー参加者(30名程度)のコーラス「旅立ちの日に」。これも、いい歌で、彼らにとってかけがえのないすばらしい思い出の一齣。青春やってるな、という感じ。男女比率は圧倒的に女の子が多く、もちろんこれがシルクのプロジェクトであることも関係しているだろうが、昨今の日本の状況を反映している。

いよいよ、ファッション・ショーの始まり。まず、和服の二人。伝統の森で織り上げた布を日本で仕立てたとのこと。渋く美しい色合い。して、内側にはクメールの伝統の色柄のアプサラが天上を遊泳する姿があしらってある。すばらしい遊び心。

織りの美しさ、しぶい光沢、精緻な文様の多様さ、クメール彫刻のすばらしさとシンクロする色彩の文様。

そして、誇りに輝く村の女性たち。自分たちで織った布をまとい、お化粧をし、堂々と、時にはにかみ、ときに茶目っ気たっぷりにポーズを決める。普段、慎ましい身なりをして、決して楽とは言えない作業に従事し、普通の村の暮らしをしている女性たちのハレの場。女性たちは自らの内側から光を放っているように感じた。そして、普段、織り機の置いてある広場に仕立てられた極めてシンプルなT字型木製ステージと天井には複数の白い布をピンと張った空間が、シルクとともに、全体が金色に輝くステージに思えてくる黄金色の幻視。金色の繭と金色のアンコールワットのイメージが脳裏で重なる。渋く、でも多彩な色彩と多様な文様、内側から輝く黄金色の誇り。涙がこぼれそうになった。

最後の曲は「We are the Champions」、ツボを心得た分かりやすい演出と遊び心。すばらしいステージだった。

世界で様々なファッションショーが開かれているが、これ以上のファッションショーがありえるだろうか? 僕の価値観に過ぎないが、これは、世界最高のファッションショーのように思える。
(松本清嗣/るしな・こみゅにけーしょん・やぽねしあ)

更新日時 : 2008年9月30日 08:01

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