自然との融合
今年は、雨期明けが遅い。例年なら10月の半ばには雨も終わる。
でも伝統の森で、農業に携わる身、やはり雨は天の恵み。そして、元気に育つ森の木々。森の木々、最近改めてその成長の早さに驚かされることがある。それも自然がもたらす、太陽や雨のおかげ。
伝統の森で活動を始めた2003年ごろ、森の木々はまだ木といえるものではなかった。それが、今では小さな林と呼べるところまで成長してきた。
そんな、育ち始めた森と沼のある環境で、エアコンや扇風機も必要としない本当に自然のなかで、季節の風にあたりながら暮らしている。それは、とても贅沢なこと。自然は、そんな贅沢な気持ちを届けてくれる。
もう種から植えて6年になるアーモンドの木。全部で十数本、その木の葉からきれいな黒が染まる。いまでは、5メートルほどに育ち、伝統の森では黒の染料は自給できるようになった。おなじ黒の染料で有名なマックルアーの木。これは、柿の仲間。種を、トンレサップ湖に近い、遺跡のあるプノムクラオムの山にある古木から採取、苗木を育てた。その木も、いまでは元気に育ち、実もなり始めた。
自然の恵みを生かして暮らす。桑の木があり、蚕を飼い、生糸を作る。そして、自然の植物で染めて織る。そんな昔ながらの暮らしが、伝統の森で蘇り始めている。
9月半ば、蚕祭りとその前夜祭を終え、9月末にはフランスのツールーズでのIKTTの布の展示会のオープニング・セレモニーに出かけてきた。スペインに近いこの街は、これまでのパリやリヨンとは違う表情を持つ。この街は、藍の交易でも栄えた街らしい。内陸部にありながら海上交易に深くかかわっていた。
ふと、シエムリアップのアンコールの時代のことを思っていた。やはり内陸にありながら海上交易の中心地として栄華を築いてきた街。
ツールーズは、もうひとつ、レンガの街でも有名なところ。別名ピンクの街というらしい。近くで取れる土を原料に焼かれたレンガ。そして、いまも旧市街に残る、そんなレンガ造りの建物の色がこの由来。そのレンガも、カンボジアでは、とても見慣れたレンガであり、アンコールの遺跡の中にも同じようなレンガ造りの寺院が多く残されている。
自然の恵みで作られる布。それは、その土地土地の風土の中で生み出されてきた素材を生かすことでもある。ツールーズの街やアンコールの寺院もおなじこと。
IKTTの伝統の森では、そんな素材作りから取り組みはじめてきた。それは、自然のなかで、植物や土を生かす先人の知恵を学ぶことでもある。
今年は、例年より洪水ともよべる冠水の時期が長かった。長びく雨を見ながら、これさえも自然の恵みとして、時に受け止めることが必要なのかもしれないと、ふと思っていた。そして、それを生かす知恵がそのなかから生まれてくるもの。
プレイベン州の僻地の村では、麻の栽培がいまも続けられている、そんな村と村人に出会った。その村は、雨季の半年、畑は冠水している。そこに暮らす人々の知恵、それがいまも続けられてきたゴザ作りであり、その素材としての茅や麻の栽培。ゴザ作りのための素材は、その厳しいとも言える自然環境の中にあるもの。
厳しい環境下におかれることで、ときに新しい発見や知恵が生まれてくる。それは、自然との融合とでもいえる。混沌と融合。それは、自然のなかで暮らす人々の知恵ともいえる。
森本喜久男
更新日時 : 2008年10月22日 09:06


