自然のコンビニエンスストアー
カンボジアの伝統織物の復元に取り組むわたしたちIKTTは、絣糸を染めるために、さまざまな染め材を使っている。
たとえば、黄色の染め材となるプローフーという木。この木の皮は、「山の幸」を扱っている仲買人のおばちゃんに頼んで届けてもらっているのだが、もし、「山にはそんな木はもうないよ」と言われたときどうするのかと考えたことがある。
ずいぶん前のことになるが、実際にタイ・カンボジアの国境沿いの地雷原の山のなか、プローフーの木が自生している現場を見に行ったことがある。それは、考えてみればとてもクレイジーなことで、プローフーが自然に生えている姿を見てみたいという気持ちから、兵隊とともに地雷原となった山のなかを歩いていった。
でも、あの山の中にあった美しいプローフーの林を、皆が切りすぎてなくなってしまったら、と考えてみる。ただ切るだけであれば、いつかその時はやってくる。であれば、自分でプローフーの木を育てなくてはいけない。
たまたま、村の養蚕復活プロジェクトを始めた、カンポット州のタコー村に通う道すがら、道沿いの家にプローフーの木があるのを見つけた。そして、小さな柿のようなそのオレンジ色の実がなるころに訪ね、実をひとかかえもらってきた。
芽が出てくるまでに半年、30センチほどの苗木になり、直植えできるようになるまでに2年。そして、半日陰を好むその木は、伝統の森の林の中に植えて5年目を迎えた。が、まだやっと1メートルほどの小さな木。でも、しっかりと枝をのばしている。しかし、染めに使えるようになるのには20年ほどかかるのではないだろうか。
沖縄の伝統的な紅型染めの布の代表的な色のひとつは、このプローフーの黄色。沖縄では、福木(フクギ)と呼ばれている。地元の織り手の間では「若い木からではいい色が出ない、だから木が大きく成長してから染めに使うのだ」と言い伝えられていると聞いた。それは、この木のゆるやかに育つ性質にもよるが、自然の中で染め材となる恵みへの沖縄の人たちの配慮が感じられる。
この木の実をもらったカンポットの村でも、伝統的に染め材として使われてきた。村でまわりを見渡すと、赤い色を染めるためのラックカイガラムシの巣、藍、黒染めに使うマックルアーの木など、染め料となる素材には事欠かない。そんな自然環境が豊かな織物の伝統を形作ってきた。
織り手にとって、森は織りに必要なものをそろえたコンビニエンスストアーのようなものかもしれない。でも、その自然へのお返しも忘れてはならない。
更新日時 : 2008年10月23日 15:32


