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IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

あたらしい5千年の歴史

カンボジア原産の、黄色い生糸をはく蚕。

5千年前に、この蚕はカンボジアの森の中に野生していた。桑の木と一緒に。その蚕の吐く糸がすばらしく、森から桑の木と一緒に持ち出され、養蚕の歴史は中国の揚子江あたりで始まる。それから5千年、いま、その5千年の歴史が終わろうとしている。

そんなことをいうと異論が出るかもしれないが、近代化の大量生産の渦中で、シルクの本来のよさが、過度の品種改良の結果、減少してきていることは、まちがいのない事実。その結果、衣料品としてのシルクの本来の価値は下降している。残念なこと。

しかし、カンボジアの黄色い生糸を吐く蚕は、そのシルク本来のよさを保っている。それは、工業化の中で「改良」されつくされた白い生糸とは別のもの。

タイ時代から数えて、もう25年。わたしはこの黄色い生糸に魅せられてきた。そのしなやかな、生糸の持つ風合い。そして、自然の染料との相性。つい最近まで、カンボジアのシルク関係者の中でも、シルクの近代化、すなわち品種改良を目指そうという声が主流を占めていた。しかし、ここにきて、改めてカンボジアの黄色い生糸を見直そうという風潮が、生まれ始めている。つまり、中国やベトナムの白い生糸と、カンボジア在来の黄色い生糸との違いを「シルク」という言葉で、一括りしてきた流れが変わり始めている。

機械化の中で、大量生産されてきたシルクではなく、伝統的な手法を尊重する。そんな違いが、理解され始めてきた。もちろん、布の風合いが違う。それにもまして、丈夫なシルクなのである。そして、その黄色い生糸でできた布への需要が間違いなく、いま増加し始めている。

カンボジア政府の商業省や国連開発計画(UNDP)などが、その違いを理解したうえで、カンボジア原産の生糸への取り組みを、プロジェクトとして考えるようになってきた。「伝統の森」にも、そんなプロジェクト関係者が、たびたび訪ねてくるようになった。

それは、これまでの5千年の歴史を終え、あたらしいシルクの5千年の歴史がこれから始まろうとしていることを意味する。

更新日時 : 2009年3月13日 08:42

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