IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

布が売れた

シエムリアップのショップにあった、わたしの筆描きバティックの布の、最後の一枚が売れた。

昨年の「蚕まつり」のファッションショー用に、数枚を描きあげたものが年末年始の時期に売れ、年明けにまた2枚、追加して描き上げたものの、最後。テーマは同じく生命の木。一緒に働き暮らす、IKTTのみんなを思いながら描き上げたもの。

布に描かれた木々の絡まる姿を見ながら、これは何をモチーフにしたものだと聞いてきた、その布のあたらしい主は、シンガポールで働くアメリカ人の女性。彼女といっしょに布をはさんで記念撮影。

自然の染料によるローケツ染め。椰子の実から染め出したベージュをベースに、鉄媒染で墨の陰を入れ、その上からプロフー(フクギ)の樹皮の黄色と、ラックカイガラムシの赤味紫ぼかしに、最後はアーモンドの葉で染めた黒の絞り染めで仕上げ。

この染め方は、秘伝(?)というほどでもないが、ナイショ。インドネシアに住む自然染料でのバティックの再興を目指すアメリカ人から、ぜひ教えてほしいと乞われたが、いやだと言った経過が最近ある。

そのとき彼に手渡した藍の種、それを植えたというメイルが、彼から届いた。最近は、家の周囲の庭や山に行って、染め材を探す日々だとも書いていた。そして、ほんとうに自然にやさしい染色をやりたいものだと。自然染料といいながら、クロームや銅などの自然破壊につながる重金属の媒染剤を使うこともやめたとも。

そして昔、村でバテックをやっていたじっちゃんを探し、話を聞き始めたらしい。彼のそんな姿を見て、地元の古老が秘伝の技を彼に話し始めたという。それは、わたしが15年ほど前に、カンボジアの村を回りながら、おばあちゃんたちから聞き取りを始めたころと重なる。

最近、日本から来られた若い夫婦。というか、ブータンへの新婚旅行の最後が、なぜかシエムリアップの「伝統の森」。そのお二人も、近いうちに岐阜の山の中の過疎化した村に住み始めると聞いた。わたしは、カンボジアでもインドネシアでも日本の岐阜の山の中でも、人々は何百年、何千年という時間のなかで、自然とともに暮らしてきたわけで、その地で培われてきた、自然のなかで暮らすその知恵を今もう一度、取り戻すことが大切なのではないか、と思う。そんな話をお二人と。

わずか、この100年ほど、もっといえばこの50年ほどで、急速に近代化や合理化が叫ばれ、効率と大量生産と消費という流れのなかで、そんな何百年にもわたる、人びとの知恵が軽んじられてきてしまった。そのことへの反省と、その知恵を取り戻すことがいま、これからのわたしたちの未来にとって大切なことであるように思う。

わたしたちの「伝統の森」の、正式の英語名はWisdom from the Forestという。自然の象徴としての森、その中で暮らす人びとの知恵。布は、森からの贈り物。そんな「森」とともに生きる知恵をもう一度見直して生きたい。

そのためには、その知恵を持った年配の人々から学ばなくてはならない。もう、70歳や80歳、そんな年配の方々の中に、知恵は眠ろうとしているし、忘れ去られようとしている。今このときを逃したら、取り戻せない知恵も、たくさんある。わたしが15年前に村で出会ったおばあちゃんのなかには、すでに他界された方も多い。

そのときそのときを大切にしながら、大きな自然と向き合っていければいいと思う。なぜならば、わたしたちの未来はそこにあるから。

更新日時 : 2009年4月24日 10:56

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