IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

生産調整

生産調整などというと、いま流行の世界金融危機の結果のような話だけれども。じつは、このことは昨年の早い時期から考えていた。いよいよそれを具体的に実行するときが来た、と思うようになった。

IKTTの現在。約300人のスタッフとその家族。その未来のための、生産調整である。もちろん、それは、IKTTの布を愛していただいている方々の未来にとってもプラスになる、そんな生産調整。

現在のスタッフの半数は、もうIKTTで働きはじめて4年以上になる。なかには6年7年クラスもたくさんいる。彼女たちはそれぞれのセクションでリーダーとなり、若い研修生を引っ張ってくれる、お姉さん的存在。蚕の世話をするコンニィヤン、染めのリナ、織りのサンボー、染め材料係のリンナー、人事のボパ、在庫管理のサラビィー。数えれば20人を超える。それぞれがプロ、仕事への厳しさ、責任感がある。

一枚の布ができるということは、桑畑の畑の手入れから始まり、蚕、糸、染め、絣柄括り、そして織り。最後には、仕上げ、そして店での販売まで。たくさんの手を経て、それぞれの最善の仕事の集合の結果として、一枚の布がそこにある。

以前、カンボジアの大臣が「伝統の森」を視察に来られたときのこと、みんなの働く姿をご覧になり、わたしにこう訊ねられた。曰く、こんなによく働くカンボジアの人々をどのようにして集めてきたのだと。

たとえば、わたしは子どもを抱えたほんとうに貧しい村の女性に仕事を提供してきた。それは、そのまま彼女の仕事へのモチベーションの高さに比例していくはず。

わたしは、仕事というのは時間=量も大切だけれども、もっと大切なのは質だと考える。だらだらと7時間働くよりも、集中していい仕事を5時間するほうがいい。だから、残りの2時間はお喋りをしていたり、赤ん坊のおしめを換えていてもいいと思っている。

熟練度を増した彼女たちの仕事によって、単純に布は美しくなり生産量も上がってきた。4年ほど前の500人を超える人員を抱えていたころの生産量を、昨年の半ばには、現在の300人体制で、倍とはいかないが超え始めた。

布の完成度をより高める。これは、わたしにとって、普遍ともいえるテーマ。単純には、一枚の布に注がれるエネルギーを高めていくことで、実現する。しかし、それは決して簡単なことではない。しかし、その時期が到来した。布の生産総量は現状か、やや落としても、むしろその完成度をあげていくための作業に、エネルギーをより多くシフトしていく。それが、今回の生産調整の真意である。現在の熟練度が上がってきたIKTTのエネルギーの総量を、生産量を上げずに、布の質の向上に転化する。

簡単に言えば、一枚一枚の布にもっと手間をかけるということ。そのことで布の完成度を上げていくことが、可能になる。

先日、岩手県の遠野の方がこられた。話していて、昔は、麻で布を作っていたんだよねと。でも、いまじゃ誰も見向きもしない、でも麻で作った布は気持ちがいいんだよね、とその年配の男性の方はいわれていた。そして、誰も見向きをしなくなった麻だけども、雑草のなかで負けずに元気に、今でも育っているんだよね、といわれていた。

いま、IKTTの布の未来を考える。それは、その布を見た人が手にしたくなる、そんな布を作りきることだと思っている。その布があることで、その布をまとうことで幸せになれるそんな布。そして、千年、2千年後にも輝くそんな布を作りたいと思っている。


森本喜久男

更新日時 : 2009年5月 2日 09:39

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