IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

町屋

 偶然なのか、町屋と呼ばれる100年以上の歴史のある家で、お話をさせ
ていただく機会が何度かあった。

 ひとつは、新潟県上越市の町屋交流館「高田小町」。小さな中庭があり、土蔵もある豪邸といえるもの。独特の高い吹き抜けの、ごつごつとした大きな梁の重なるその造りは、そこにいるだけで落ち着いた気分にさせてくれる。家の外観からは計り知れない、それは木が持つ質感とその重なりで表現された小宇宙のような気がした。

 わたしは、京都で手描友禅の仕事をしていたころ、時間があれば訪れるところに、五条坂にある陶芸家の河井寛治郎記念館があった。家の横には、大きな登り窯があり、その古い家のたたずまいとともに、展示されていた濱田省吾やバーナード・リーチなど、同じ民芸の人たちの繊細かつダイナミックとも言える仕事を見るのが楽しく、時を忘れて過ごした記憶がある。

 今回のもうひとつの会場、岐阜市にある「ぎゃらりー&カフェ 今昔庵」。一年ほど前に、放置されていた家をリニューアルしてオープンしたスペースとのことで、大きな蔵と庭に面した部屋のたたずまいは、往時のその家の主の姿を思わせるもの。少し大きな古い家の中ほどに中庭が、そして、その奥に離れが。そんな家の風情が当時の人々の、ゆったりとした生活習慣を感じさせてくれる。

 そんな古い家を、再開発で取り壊すのではなく再生させる試み。わたしは家も生き物だと思っている。そこに住む人や利用する人によって、命を吹き込まれていく。それは、町並みも同じ。その土地の気候風土の中で育まれてきたものであるはず。そして、そこに暮らす人たちの生活や歴史を現している。

 そして、この高田小町、なかで持ち込みの食事ができる。これはとても大切なこと。管理するだけで、飲み物もだめというところが多いなか、地域の人々に開かれた憩いの空間として利用できる環境を持つ。それが、活性化のためのキーワード。大きな家を個人で持つことは大変だとしても、そんな残された、古い町屋が地域の人々にとっての財産となる。

 20年ほど前、古い町並みを軒並みブルドーザーで取り壊し、再開発を進めていたころのシンガポールを訪ねた。そのとき、少し古い観光案内の地図にある町並みが消えていたことを残念に感じた。しかし、それからわずか数年後、そんな歴史的な町並みが、シンガポールの観光産業にとって重要な資源であることに気づき、わずかに残っていた町並みが整備された。その町並みは、いまでは南国の大切な顔になっている。

 九州の町で、有名な異人館のある丘に行ったことがある。しかし、そこには建物だけが管理保存されているところに思えた。そして、同じ日の夕方、江戸時代からある下町の料亭に誘っていただいた。そこは、素朴な美しさが商売を続ける中で気遣われ、伝統が生きていた。その古い木造の建物の持つ雰囲気だけではなく、帰るとき、店の人たちが足元を蝋燭の行灯で照らしてくれたことに、あらためて驚いた。

 「伝統の森」で、開墾から始め、畑をつくり、家を建てということを進めながら、本当に小さな藁葺きの家だが、やはりそこに住む人の表情が自然と出てくるものだと思っている。気候風土の中で育まれてきた知恵や生活を、村づくりのなかで、活かしたい。それはアミューズメントパークではない、人々の生活のなかに、そしてそれを包む自然も大切にしながら。何十年後かに訪れた人が憩いを感じていただける町並み、いや村並みを、そんな村づくりができればと思っている。


森本喜久男

更新日時 : 2009年6月 6日 07:25

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