IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

座り読み

 先日の報告会、東京では高円寺にある「茶房・高円寺書林」にて、お話をさせていただいた。

 本屋さんでは立ち読みが当たり前。好きな著者なら、新刊が出ればなかを見ないで買う、みたいなこともある。が、ふつうは書店で内容を確かめる。そんなときコーヒーでも飲みながら、座り読みのできる本屋さんだろうか。小さな喫茶店と本屋さんが一緒になっている。そんな小さな本屋さん。

 地方の町を訪れると、町屋が並ぶ商店街に、シャッターが下りたままになっているところがある。そんな風景を見ながら、ふと思ったこと。

 高田での主催者の方と話しながら、高田には全国でも指折りの夜桜の季節があり、100万人以上の人たちが訪れるのだという。そんなに多くの人たちが高田を訪れながら、地元の商店街には足が向かない。逆に言えば、足を向けたいものがない。だったら、足が向くようなものを売る店がある、そんな企画をすすめればいいじゃないかと思ってしまう。

 これは、地元で暮らす人にとっても同じではないだろうか。大量生産の流通商品の仕入れでは、郊外型の大手のスーパーやチェーン店に勝てない。結果、地元の店が消えていく。でも、それは安いことや便利さが売りだから。そんな大手スーパーでも手がつけられない商売の仕方があるのではないかと思う。そういう意味で、高円寺書林の座って本が選べる空間は、ひとつの糸口のような気がした。

 作った野菜を、畑の横の道端で売る。そんな形が大切なのではないだろうか。シャッターの閉まった商店街の前に、朝市が立つ。そうすれば、閉まっていたシャッターが開き始めるかもしれない。パリの中心部で、メトロを出てきたところに野菜や果物が山のように積まれている。朝の数時間、そして道端の店は消えていく。農業国のフランスでは、生産農家が町で自家販売をしている。それは、新鮮で安くておいしい。生産者と消費者が直結するシステム。それは、お互いに利益をもたらすことになる。フランスでは毎日開いてない店もある。曜日指定や、午後だけ店を開け夕方には閉まる、なんていう、わたしから見れば変則的な営業時間の店が多い。

 でも、オーナーから言わせれば、何で毎日開けなければならないのだという答えが。それでも欲しい人は、その時間に合わせてやって来る。そんないろんなバリエーションがあっていいはず。フランスのツールーズの町でも、市役所前の大きな広場に市が立つ。わたしは、そこでチャムの古美術書を手に入れた。フランスで出版されていたもので、すでに手が入らないものだと諦めていた。そんな、ある人にとってはごみ同様の物が、ほかの人にとっては探し求めていた宝かもしれない。物の価値は多様、眠っている価値を再生させる。インターネットでそんな売り買いが盛んだけれども、朝市が立ち、そこでそんな売り買いが、見える相手と成立するというのがいい。

 わたしがタイで暮らしていた頃、村でできた布を売る店をバンコックで開いていた。そこでは、日本からのバイヤーの人たちと会うことも。当時は、80年代の後半、まだバブルがはじける前だった。無印良品のバイヤーの方に村で織った自然染料の布を見ていただき、好評で話がまとまりかけた。しかし、注文のロットが多すぎて、残念ながらお断りしたことがある(その後バブルがはじけ、百貨店の注文ロットが少なくなり、逆に対応できるようになった、という経験もした)。

 いまでは、ロットどころか、サンプルなどない一点もの、そんな布作りをしているのだが。

 たとえば、洋裁のできるおばあちゃんが、古い着物を洗って、その布で手縫いの服をつくる。そんな可愛いい服が買える店、でも店は土日の午後しか開いていない。孫にお小遣いを上げられるほどの儲けかもしれない。サワガニ獲りの名人のおじさん、彼が獲ったカニを売っている店。でもそれは、夏場だけの店。地元で取れた竹の子を、その時期だけ売る店が立つ、それはそれでいいのではないだろうか。

 大量に物を作り販売するというのも、ひとつのビジネスだとすれば、適正量を作り、適正価格で売るというのも、ひとつのビジネスなはず。

 IKTTの布は、どこにも卸さず、直販に徹している。それは、織り手が見える距離を大切にしたいという気持ちと、卸せばその分だけ価格は上昇する。それを避けたいという理由から。でも、嬉しいことに、リピーターの方が意外と多い。一度お求めになった方の友人や家族の方がシエムリアップに来られて、またお求めていただくというケースが増えてきている。

 ときに、売り上げが落ちる時期には、わたしが布を担いで、行商の旅に出る。IKTTの300人ほどのスタッフとその家族が食べていければよい、それが基本である。腕が上がって生産量が上がるようになれば、生産量を上げるよりも、もっと手をかけ、質を上げていきたいと思っている。

 ほかでは買えない布を作りきる、そんな努力をしていきたいと。


森本喜久男

更新日時 : 2009年6月 8日 07:32

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