IKTT
IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

デーゴーの花の咲く頃

 沖縄では有名なデーゴーの花が「伝統の森」で綺麗に咲き始めた。毎年2月の頃、森にはたくさんの花が咲く、その中でも鮮やかな赤いデーゴーの花は別格。

 それ以外にも、わたしが勝手に「山桜」と呼んでいる、ダムニエンとクメール語で呼ばれる木がある。白い小さな花を咲かせ、遠目には山桜そのものの。この新芽は、そのまま刻んで、バンチョックとよぶカンボジア風素麺の掛け汁に入れられる。

 今年はまだ花を咲かせていないが、ネムノキの花を一回り大きくしたような、夜に咲く赤い花、ダムカダオ。それ以外にも、珍しい花が見られるのが、この時期の楽しみでもある。

 そして、種から植えてもう6メートルほどに育った、その葉を黒染めに使うインディアン・アーモンドは落葉と新芽が同時にやってくる、不思議な光景が見られる。それは、ちょうど秋と春が一緒にやってくるようなもの。

 「伝統の森」は、ちょうどそんな季節の変わり目にある。それでというわけではないが、いくつかの新しい計画が動き始めた。

 ひとつは、「伝統の森」の入口に近いところにある井戸の傍に、新しく染め場を作ることにした。現在の染め場は、工芸エリアにある。

 自然の染めは、常に水質に左右される。とくにラックの赤を染めるとき、その水質がそのまま色に反映される。鉄分の多い水では、ラックは染められない。

 じつは、「伝統の森」の中にあるたくさんの井戸の中で、鉄分に影響されない井戸は二か所しかない。新しい土地と呼んでいる、シエムリアップ川に近い桑畑のエリアにある井戸と、もうひとつは「伝統の森」の入口近くにある井戸。

 雨季の間は、天水(雨水)が最良の水。しかし、乾季になるとそういうわけにはいかない。つまり、乾季に鮮やかな赤い色に染めたいと思えば、鉄分の少ない水を求めて、織り手は一キロちかく離れた「伝統の森」の入口近くの井戸まで水を汲みに行っていた。そんな姿を見ていて、思い切って染め場をその井戸の傍に作ることを決めた。

 村の大工組の出番。さっそく簡単な平屋の小屋が作られた。当初の想定は、約3メートル×5メートルのもの。しかし、道具などを収納するための小さな部屋も併設すると、倍の大きさに。その結果、30平方メートルの1DKになった。それを見た染め組のリーダー、トウルさん曰く「ここに住むのもいいな」と言い始めた。

 もうひとつは、新しい桑畑のための開墾を開始した。

 「伝統の森」のなかで第5エリアと呼ぶ野菜畑のあるところの、これまで手付かずだった4ヘクタールのうちの1.5ヘクタールを、新たな桑畑にすることに。ここは乾季にも水がある沼の傍ゆえ、桑畑への潅水が容易なことがその理由。

 じつは昨夜、「伝統の森」の男たちと、久しぶりにミーティングを持った。 議題はいくつかあったが、話の核心は桑畑の水管理。そして、桑の木のさらなる育成について。生糸の生産量は、単純に桑畑の葉の収穫量に比例する。最近、カンボジアの黄色いシルクは、少しずつその良さが知られ始め、海外からも引く手あまた。そのため、これまでIKTTも購入してきたプノムスロックの養蚕の村からの十分な生糸の供給が難しくなり始めた。そのため、自前の生糸の生産が重要課題に再浮上してきた。その結果でもある。

 今までは、育てた桑の葉が仔牛に食べられたと冗談のようなことも聞き流していられたが、そういうわけにいかなくなった。柵を整備して、そんなことのないようにと注意をしたり、潅水を怠り育成のよくない畑の責任者に、もう一度確認したりしながら話が進む。そして「伝統の森」の入口近くにある桑畑は、3、4月のいちばん沼の水位が下がる時期の潅水がネックになっていた。高低差のある300メートル以上離れた沼から、大型の揚水ポンプを使って潅水しなければならなかった。しかし、その揚水ポンプが壊れてしまい、修理もできず、あらたに購入の必要が出ていた。

 その代用も含めて、いくつかの案を検討しながら、ふと、そんな無理に離れたところから水を運ばなくとも、水の傍にあらたに畑を作ればいいではないかという話になった。さいわい、そのための土地もある。

 さっそく、その予定地の開墾が今朝から始まった。この土地は、「伝統の森」のなかでいちばん新しく購入したエリアで、2006年に、日本からの多くの方々の支援協力で購入することができたところ。一部を開墾し、野菜畑と桑畑をつくり、アヒルの飼育を始めたところ。ここに、あらたな桑畑が加わることに。並行して、灌漑設備を整備する予定である。

 これで「伝統の森」の風景が、また少し変わっていく。今年の課題は、森の自給率を上げていくことであった。その核心ともいえる、生糸の生産を上げていくことに、全力をかけることになった。それは「伝統の森」の男たちの仕事。そんな同意を、昨夜のミーティングで確認した。IKTTは、じつは普段はほとんど会議もすることはない。そんな時間があれば、それぞれの役割の仕事をというのが基本だった。

 しかし、カンボジアシルクをめぐる状況が大きく変わり始めているなかで、桑畑と蚕の育成のための新たな視点と協力が必要になってきた。そのための集まりであった。

 不思議なもので、染め場のことも桑畑への潅水のことも、どちらも水に由来する問題である。限られた水資源を最大限に有効活用することで、新しい展開が可能になる。しかし、それを可能にする、その基本は、アンコールの時代から「伝統の森」に存在する、乾季にも枯れない大きな沼のおかげである。その恵まれた環境を、自然の恵みを、最大限に活かしていかなくてはならない。

更新日時 : 2010年2月10日 14:58

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