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IKTT :(クメール伝統織物研究所)森本喜久男

カンボジアシルクの未来のために

本当に急に決まった。というか、お招きがあった。そして昨日、案内状が正式にわたくしの実家へ届いたので、夢ではないのだろう。とても光栄なことだと思い、お受けした。もともと野にいる人間だから、晴れがましくもある。そして、わたしにすれば、なかば狐に包まれたような話でもある。

カンボジアのシハモニ国王が、まもなく国賓として日本に招かれるということは、ニュースで聞いていた。その一連の国賓行事のひとつとして、鳩山首相御夫妻主催の午餐会が首相官邸で催される。その席に、わたくしもお招きを受けた。これはきっと、わたくしにカンボジアの黄色いシルクの未来のために、鳩山首相にお会いしてお話をさせていただく、その大切な機会をいただいたのだと、いま思っている。

これまでカンボジアでは、フランス勢が中心になってシルクの国家プロジェクトに絡んできた。それは、江戸末期に日本へ近代養蚕の技術を伝播させた、フランス・リヨンの専門家たちの姿に重なるものがある。しかし、というか、その基本は近代養蚕と呼べる大量生産を目指したものが主流である。

だが、時代は21世紀。もう大量生産の時代は終わった。これからは、適正生産と適正消費の時代に移行していくはず。そのなかで、大量生産のために品種改良されてきた中国シルクではない、タイシルクでもない、カンボジアのシルクの新しい未来がそこにある。

カンボジアの黄色いシルクは、機械生産には向かない非効率的な蚕だといわれてきた。しかし、中国や日本の効率化と大量生産をよしとして改良され尽くされた蚕の吐く生糸の質は、間違いなく低下している。しかし、昔ながらの非効率的な黄色い蚕は、丈夫でしなやかな高品質な生糸を吐く。

カンボジアの貧しい農家を支える現金収入の一つとして、この黄色い生糸の生産を支えることは大切な事業である。しかしそれは、決して大量生産の効率化を目的にした方向ではなく、新しい市場に向けたものではなくてはならない。

カンボジアの農村のゆるやかな発展のために、伝統的な養蚕事業を育成するための知恵や経験は、日本の専門家のなかにも眠っている。それは、今となってはほとんど壊滅してしまった、効率化を目指し続けた日本の養蚕業の結果である。その技術や経験を、これから非効率的な養蚕業のために生かしていただければと願っている。それは、養蚕業の新しいダイレクションであり、未来となるはず。

更新日時 : 2010年5月14日 17:41

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